●兜町に来たきっかけを教えてください。
2018年にカレー屋まーくん(※1)主催のフードパーティーを当方でおこなったんですが、その際Bal(※2)の江田さんがスパイス料理にナチュールワインを合わせたらもっと面白いんじゃない?と助言いただいて、Human Natureの高橋さんを紹介していただきました。その時にメンバー全員がナチュールワインに目覚めてしまい…その後もナチュールを定期的に買ったりと交流がありました。SRの加藤さんとは一度、彼の前職時代に仕事でご一緒していて、加藤さんと高橋さんが同じ空間にいるのをSNSで見つけて訪れてみたのが最初でした。
※1 カレー屋まーくん
カレー好きの間で高い人気を誇っているクリエイター。カレー作り以外にも、料理研究家やクリエーティブディレクター、DJなどマルチに活動を広げ、注目を集めている。Somewhere in TokyoではシークレットDJとしてPUNPEEをブッキングしていた。
※2 Bal
「アーバンライフをベースとしたハイクオリティーなモダンカジュアルウエアとグラフィックの提案」をコンセプトに、デザイナー達のもっとも影響を受けた90年代のクロスカルチャーをベースに様々なカルチャーを取り入れたモダンカジュアルウエアブランド。
●これまで兜町に来たことはありましたか?
長くのお付き合いしている取引先が日本橋にあって、打ち合わせなどで良く来ていました。多い時には週に2-3日はいたりしますね。
●この辺りには詳しいのでしょうか?
それが、打ち合わせが終わったらすぐに帰っていたので、あまり詳しくはなくて。今は高橋さんのお店ができたので、一杯引っかけてから帰っています。打ち合わせは1時間ほどが多いんですけど、ここにはついつい何時間もいてしまって(笑)。
●どんなことを話しているのでしょうか?
ほとんど音楽やグルメ情報、最近の政治や社会情勢についてなど全然仕事とは関係ないことばかり話しています。気づけば、高橋さんと音楽を掛け合っていたりもします(笑)。
●ワインも音楽レーベルのような感じですよね。
そうなんですよ。どちらかというとワインを試飲させていただいたりだとか、レコードを掘りに行く感覚でワインの勉強をしに来ています。週末のワインを選んだり、実はSomewhere in Tokyoのスペースでも小さなワインセラーを置いていて、高橋さんにセレクトしてもらったワインが飲めるようになっているんです。
●Somewhere in Tokyoのメンバーということですが、普段はどんなお仕事をされているのでしょうか?
ウェブが中心のディレクション業をしています。ブランドのHPを作ったり、効果的な運用をサポートしたりがメインですね。
●ご出身は?
静岡県の島田市というところです。実家のある場所は、村がなくなってしまい、未だに携帯は圏外で、ガスや水道すら通っていないようなところでした。
●どのような経緯で東京へ?
洋服が好きでスタイリストを志そうと思っていたので、文化服装学院(※3)に通うために上京してきました。
※3 文化服装学院
新宿にあるファッションの専門学校。
●先ほどご出身をお伺いしましたが、何もない環境下でどのようにご自身の興味を花開かせたのでしょうか?
父が割と早い段階でパソコンに触れていた人だったので、僕も小学生の頃から遊び半分で触っていました。中学生のころには脆弱なネット環境はあったものの、当時の国内はまだそんなに情報が転がっていなくて、どうしても海外の情報にアクセスすることが多かったんです。父の集めたカルチャー誌なんかもよく見ていたし、その影響が大きかったと思います。
●社会人一年目は何をされていましたか?
BEAMSのART Tシャツ部門であるBEAMS Tの立ち上げメンバーとして働いたのが最初の社会人経験でした。そこからウェブのベンチャー企業に入りました。
●どうしてウェブ事業に乗り出したのでしょうか?
当時はウェブの創世記というか、みんなウェブをやった方がいいのはわかっているけど、効果的な運用方法を知らない人が大半という状況でした。そういった需要のある企業へ出向して、一緒にウェブをつくったり、つくったウェブの売り上げを上げたりしていくようなコンサルティングと実務が共存した会社にディレクターとして入社して、3年間ほど大手の出版社や文房具メーカーのウェブサイトのデザインから売り方までをディレクションするなかでウェブの必要性を実感し、その仕事を習得していきました。
●独立される直前は何をされていたのでしょうか?
学生時代の友人がたくさん働いていた、FREAK’S STOREというセレクトショップで、ウェブ部門の立ち上げがありお声がけいただいて、10年間そこで働いていました。その間、会社の年商は約6倍ほどとなり、その5分の1がウェブ事業での売り上げでした。売上0からそこまで成長した事業経験ができたのは面白かったです。
●ウェブの需要は膨らむばかりですね。
学生時代の友人たちが30歳を過ぎてから独立し始めたので、休みの日にそういった人たちのウェブサイトを手伝ったりしていたのですが、4年前ぐらいに自分もフリーランスのウェブディレクターとして独立して、大小さまざまなブランドのディレクションをしながら、旧知のメンバーとシェアオフィスのような感覚で事務所を構えました。
●それがSomewhere in Tokyoに?
メンバーの共通言語で一番大きいのが音楽で、デスクがない時からDJブースを入れたり、サウンドデザインを行った空間にまずはして、その空間をインスタレーションやギャラリーのように使用し、住所非公開の“都内某所”というコンセプトでアートや音楽が楽しめるサロンのような使い方をしていたのですが、そういった要素を追求するうちに、面白い空間にあったらいいモノを考えるようになり、訪れた人のためのお土産というアイデアに行き着きました。
正直なところ、無軌道に興味があることを追求して結果的にそうなっていったんですが(笑) 3人とも元々アパレルに関わる仕事だったこともあり、製品もオリジナルの生地を開発してTシャツやスウェットなどをボディから作ることで、いわゆる“従来の土産物”みたいな、ありもののTシャツにロゴを載せるだけという、ところから脱却したプロダクトを作っていまして、それを使っていろいろな面白い人たちと物づくりをしています。
●Somewhere in Tokyoは、音楽が主体という印象を受けます。空間を構成する上で音はすごく大事だと思うのですが、どのようなルーツを持っているのでしょうか?
音楽は子どもの頃から大好きで、地元にある大井川の河川敷でよく友人と音を出して遊んでいましたし、当時はハードコアやスラッシュメタルが主軸だったんですが、そこから徐々にブレイクビーツやテクノなど興味のあるジャンルが広がっていきました。
●音楽を強く意識したきっかけは何だったのでしょうか?
文化服装時代に、スタイリスト科の友人たちを見ていたらオシャレ過ぎて、入って二日ぐらいでこれは敵わないかもと思ってしまって(笑)。それで何か興味のあることを伸ばそうと思いファッションショーの音の部分を担当するようになりました。今思えば、音響効果を通じて演出やディレクションに興味が移っていったのかもしれません。
●随分早めに見切りをつけましたね。
そうですね(笑)。3年間音楽の演出をしていたので、ショーの選曲で学校外のイベントや海外のショーにも選曲で行ったりして、いつのまにか洋服よりも音楽が主体になっていきました。
●洋服と音楽には、切っても切れない関係性がありますよね。
市場的にも音楽やカルチャー主体の服が傾向が年々増えていると感じていまして。個人的にも音楽やアートなどカルチャーを落とし込んだ洋服もずっと好きなんですが、それだけでなく、新素材や繊維のテクニカルな革新も大好きで。日々情報を集めては実物に触れたり、勉強しています。まあ簡単に言うと、こじれてきていますね(笑)。
●Human Nature/SRのお店で最初にイベントをした経緯を教えてください。
ワインのシミをプリントしたデザインのTシャツがあるのですが、そのアイデアを最初に思いついたときに、お店で飲むついでに高橋さんに相談したら、興味を持っていただいたのが最初の経緯でした。でも、コロナが出始めた時期でもあったし、騒ぐのではなく、空間込みのアプローチでワインに合う音をかけながら、みんなが楽しめればいいなと思ったんです。それでDJブースを店内に持ち込んだり、naomi paris tokyo(※4)さんのアコースティックライブを行ったりして、BGMも演出させてもらいました。本当は、販売にかこつけていい音楽で美味しいワインを飲みたかっただけなのですが(笑)
※4 naomi paris tokyo
jan and naomiのnaomiとしても知られるnaomi paris tokyo。中性的なルックスでモデル業を熟す傍、メロディアスな楽曲からエクスペリメンタル、アンビエントに至るまで幅広い作曲を行い、ソロとして7月14日に最新EP『21FW』をリリース。
●自分たちの好きを追求した上でそこに同じような人たちが集まるリアルさが効果的な広がりを見せているように思います。
Somewhere in Tokyoの3人のメンバーは、出会った頃からずっと音楽が好きで、デスクは小さくてオフィスの端っこにあるのに、真ん中にどデカいDJブースが鎮座しているみたいな(笑)。もはやオフィスというよりリスニングルームのような空間ともいえる状態になっています。
●人に情報を届かせることのみに注力している昨今で、都内某所という匿名性が逆に限定的で面白いですね。
メンバー全員が興味があることがインディペンデントな物事なので、それに沿った状態にしたいというのはあります。ご縁があったり、調べてたどり着くという体験が大切だと感じるところもありますね。
Somewhere in Tokyoのように、調べても行けないような場所ってワクワクするし、その場所が良質な空間であればあるほど、楽しい思い出を更新できるはずなので、そういう部分は大切にしていきたいです。
●資本主義と正反対というか、今と逆行するようなやり方ですね。
やっぱり、こんな場所あったの?とか、調べても辿り着けないような場所の方が面白い気がするんです。なので、僕らのスペースでは集客を主軸にするようなイベントはしていなくて。少人数でも全員がしっかりと楽しめる空間にすることを一番に考えています。今はコロナになってしまったので難しいですが、イベントだけでなく、アート作品の常設をしていたり、アーティストが動画の収録で使用したり、差し入れと称して夕方からお酒や機材を持ってきた友人と音楽を聴きながら世間話をして過ごしたりという使い方もしています。
●どうして来場を友人の友人までにしているのですか?
最初からそこを設定したわけではなかったのですが、友達が遊びにくる時に友達をつれてくることがよくあります。その中で一つ気づきがあったのは、知り合いの知り合いまでだと共通言語が多いので、すぐに仲良くなれる空間になるんです。お客さん自体の共通項が多いぶん、輪が広がりやすいというのが面白くて。畑は違うけど、同じような感覚を持っている人たちが、それぞれのジャンルで混じり合うきっかけになれたら最高です。
例えば、レゲエシンガーのAsuka Andoさんとパジャマブランド[NOWHOW]さんのコラボウェアが今年発売されていたんですが、たまたまSomewhere in Tokyoで出会って生まれたんです。個人的にも好きな人たち同士のコラボだったんですが、きっかけになったことがすごく嬉しかったですね。
●洋服の話に戻りますが、何かのイベントや海外などの旅先で購入した洋服って、その時の状況が裏にあるからか、着ていて気分が全然違いませんか?
そうなんですよ。お土産って思い出がついてくるし、デザインなどにその裏付けがあることによって、人生を豊かにしてくれる一つの要素のような気がしていて。着ることでアガる服はみんな考えてつくるところですが、今日ワイン飲みにいくから、染みのTシャツ着て行こうだったり、生活を楽しむための一つのツールになっているというか。
●常にそういったことを考えながらデザインに反映しているのでしょうか?
メンバー全員がそうなるように心がけてはいるつもりです。土産物として置いてあることで、私たちなりのアプローチでその店の演出につながるようなものに作り続けたいと思っています。
●今後、この場所でどのような関わり方をしていきたいですか?
ボディの販売もそうですが、今年からSouvenir from Somewhere in Japanというお土産をプロデュースする事業も立ち上げていまして、日本の良いお店を名所として捉え、そこの土産物も展開しています。こちらは都内だけでなく、全国のお店と取り組みを増やしています。加藤くんのSRともいつかコーヒー染めの生地で何かつくれたらいいなと密かに思っています。
●最近は何か新しいアイデアを考えているのでしょうか?
毛玉になりにくいスウェットなど、素材の開発は続けています。使用感や風合いの変化なども検証しないといけないので、今スウェットを着続けていて(笑)。予定通りいけばその素材を使った商品も今季販売する予定です。
●Somewhere in Tokyoの今後の目標を教えてください。
事務所の中だけでなく、名前の通り、移動販売に音響演出もプラスさせて、東京のどこかで週末だけ開かれる野外ラウンジ兼セレクトショップみたいなことがやっていきたいですね、コロナ前にも数回行っていますが、音質など野外での空間クオリティももっと向上させていきたい思っています。
●TWILLO(※5)という神出鬼没のラムのバーがありましたが、正にそのような感じでしょうか?
あのお店やばいですよね!いろいろ話しているうちにズバリ好みを当ててくるみたいな。即興というか、常に流れているけど、その場の人の心に刺さって徐々に人が集まってくる状況は、僕らの求めるものと近いと思います。
※5 TWILLO
東京の深夜に出現する幻の屋台バー。
●そこに良い音が鳴っていたら、ついつい集まってしまいそうです。
サウンドデザインがされたシステムって小さな音量で聴いても本当に良いものなんです。逆に言うと、国内に小さい音量でも良い音を聴ける場所ってまだまだ少ないと思っていて、今度イギリスからFunktion-One(※6)というスピーカーが届くのをすごく楽しみにしています。普段から音響の設定を変えては音の違いをキャッキャ言いながら聴き比べているくらい、メンバーが音楽好きなので(笑)。
※6 Funktion-One
イギリスのサリー州ドーキングに拠点を置くイギリスのスピーカーメーカー。そのクオリティには定評があり、多くのフェスティバルやライブ会場で使用される。
●この記事を読んだ方は、Somewhere in Tokyoのパーティに行ってみたいと思うのですが、どうやったら行けますか(笑)?
もともとオフィス空間には50人ほど入るのですが、人が多過ぎるとみんなが話せなくなってしまうし、やはり最大20人ぐらいでくつろげる方が丁度いいかなと思っています。兜町に通えば、仲良くなってすぐにでも行けるかもしれませんね(笑)。
●最後に中谷さんの兜町のおすすめコースを教えてください。
駅を降りたら、まずOmnipolloへ寄ってビールを注文、グラスを握ったままHuman Natureへ。お酒の飲めない方はSRで美味しいコーヒーやオリジナルドリンクが飲めるし、そこもすごく重宝しています。夕方から飲んで、NekiかCavemanへ。食事を終えたら、最後はAoに寄って一杯という感じでしょうか。週末だとOmnipolloでタコ焼きを焼いていたり、K5では、時々お花屋さんや植物や料理のポップアップイベントも行っていて、覗きにいくだけでも発見があって楽しいです。あとは、やっぱりBの音響で音楽を聴きたいですよね。普段からいろんな場所の音質を確かめていますが、Bは都内屈指の音質が味わえる空間だと思いますよ。
中谷岳人
Takehito Nakatani
静岡県生まれ。ウェブを中心としたブランドディレクション業を行うほか、アート、音楽、アパレル、食など様々なカルチャーをクロスオーバーさせた多目的空間「Somewhere in Tokyo(都内某所)」を発足。都内某所を観光スポットにみたてた土産物を展開しながら、新たな角度で東京の魅力を発信している。
Text : Jun Kuramoto
Photo : Naoto Date
Interview : Jun Kuramoto
中谷岳人
Somewhere in Tokyo
Hotel K5
兜町の気になる人
Hotel K5
K5には泊まってみたいです。打ち合わせで行くことがあり、内装がすごく素敵で。宿泊で見えてくる土地の魅力もあるのと思うので、夕方から近隣にある気になっているお店を巡って、夜は部屋でゆっくりとお酒を飲んで過ごしたいですね。朝食営業しているお店も近くにあるので、朝の時間も楽しみです。