
●CASICAの新しい場所に兜町を選んだ理由を教えてください。
(鈴木)これまでにも新店舗の出店依頼は、いくつかの商業施設からいただいていたのですが、どこかしっくりこなかったんです。新木場店があれだけ大きい分、ただ規模を小さくしてつくるだけでは、店の濃度が薄まってしまうような気がずっとしていて。でも、兜町からお声がけいただいたとき、全然違う切り口で出せるのではと感じました。というのも、新木場は“木の町”というストーリーがあり、兜町には“金融の街”という文脈があったからです。そうした地域の背景に基づき、アジアを経て世界に発信していこうという意識が生まれました。そして、“アジアの中の東京”をキーワードに、東洋を中心としたモノと食を編集したのが、この「CASICA KABUTOCHO」です。
●ジャンルを設けていない新木場店に対して、兜町店では新たに“アジア”という枠を設定していますが、セレクトの視点において違いはありましたか。
(引田)もともとCASICAが行ってきたセレクトは、アフリカや日本などの異国の品々でも、例えば木製という共通項を設けたりしながら、感覚的につながりを持たせていました。その選び方は、今回アジアのモノを選ぶという大前提はありますが、根幹は何も変わっておりません。逆にアジアのものであれば、何でも合うとも思っていないんです。日本や中国をはじめ、トルコやインドのアイテムまでピックしながらも、背景でのつながりを探したり、新しい組み合わせを提案したりしながら、なんとなく同じ群として収まるように、アジアという文化を再編集しています。
(鈴木)僕らが考えるアジアは、曖昧でいいと思っています。海外の欧米の人から見たら、日本人と中国人と韓国人の区別もつかないかもしれません。地理的に見ても、どこからどこまでがアジアなのか明確に区切れないかと思います。歴史はグラデーションのように変わり、国や人によって解釈も違います。そのような曖昧さが面白いなとも思っているんです。そうしたニュアンスは、モノ以外にレストランの「可視化飯店」での“クロス・コンチネンタル・キュイジーヌ(大陸を横断する食)”というテーマにもいかされています。日本人にとっての“大陸料理”は中国料理のことを指すのに対して、今回はアジア全体をひとつの大陸として見た多様なメニューを提供するようにしました。国や地域による明確でない曖昧な境界線、そういうことができたらいいなという気持ちです。
●新店舗の限られたスペースの中で、空間の設計やアイテムの見せ方について工夫した点はありますか。
(鈴木)CASICAの文脈として、まず、物をボリュームで見せたいというのがあります。古道具や骨董の世界では、1個のものに焦点を当てて見せるという引き算が今の流れかもしれません。でも僕らはどちらかというと、美術館的な見せ方よりは博物館のように体系的な見せ方にこだわっています。この大きな塊の中で1個がどう見えるのか。または同じものでも配置を変えることで、違う魅力が見えてくることも。そんな体験を楽しむ、という意味合いを大事にするため、なるべく誘導しない、わかりやすくしすぎないというのも心掛けています。
(引田)その文脈に加えて、兜町では前面と奥で差をつけているのが、新しい試みです。入り口すぐの前面では、インスタレーション的にアジアの市場のような賑わいを表現しました。ただそれがずっと続くと雑然としたお店になってしまうので、奥ではより見せたいものをシェルフで配置しています。棚は一見ギャラリー的に見えますが、高級なものだけを1点ずつ整然と並べるのはCASICAらしくないので、そこにも発見できる楽しさを混ぜるようにしています。前のテナント時にはわからなかったのですが、天井が想像以上に抜けたことで高さのある什器を制作することにしました。
(鈴木)見ていて楽しさを覚えるのは、個人的には発見をする喜びだと思うんです。そのため、アイテム一つひとつの並べ方にも、ちょっとした引っかかりや違和感をつくるようにしています。回遊3周目くらいにやっと気づく、みたいなものをこっそり配置するのも好きですね。あとはあえて売れにくいものも置いています。アンティークのミャンマーの漆器など、ものによっては2年ぐらい残っていることもあります(笑)。でも、そういうものがないと、店としての個性が表現できないんです。売れるもの、売れないものをバランスよく混ぜることも、この店を確立するうえでは欠かせません。
●店の絶対ルールはありますか。
(引田)曖昧さを売りにしておりますが、ただひとつのルールとして、ここにあるものは、全てに値段がついていて、販売しているものだけを置いています。店でたまに見かける“Not For Sale”と貼られた非売品というのがいちばん気になるアイテムだったりするので(笑)。
(鈴木)飲食スペースで使っている円卓も売ってと言われたら売ります。
(引田)えっ!?いいの!?(笑)
(鈴木)そのときは、またインドに買い付けに行きます。ただ仕入れるまで待っていただくかも(笑)。円卓は一例ですが、そうした食とショップのリンクも意識しており、飲食スペースで使っているものが、そのまま売っているものもあります。例えば、箸立てとして用いているインドのラッシーカップだったり。あとは飲食スペースからは奥側の商品が見えるようにもしていますので、飲食をしながら、「あれなんだろう」という会話になってくれたらいいですね。
●ショップの中でも「CASICA KABUTOCHO」らしさを感じるアイテムを教えてください。
(引田)まず、併設の「可視化飯店」では、ランチとディナーに加え、お茶をメインとした喫茶の3部に分かれており、喫茶の部分を台湾の茶人・謝小曼(シェ・シャオマン)さんに監修していただきました。そのため、今回の作家さんの作品では茶器を多く扱っており、それがここらしさを表していると思います。
(鈴木)作家さんとお茶ってすごく密接につながっているんです。最近は、日本人でも中国茶に惹かれる人が多く、茶器をつくる方もどんどん増えています。僕らも作家さんから学んで、「だったらそれを取り入れてみようか」という順番でもあったんです。
(引田)作家さんご自身も、オファーされてお茶の道具を作ったというより、自分たちでお茶を嗜むようになったことで、こんな道具があったらいいな、という思いを形にしています。作家の亀田大介さんがつくる白磁を中心とした美しい茶器など、今回の喫茶とイメージが合うと思い、声をかけさせていただきました。あと小曼さんが発信している、自由にものをしつらえる“見立て”にも刺激をいただきました。実際に喫茶でのお茶をどのような道具で提供しようかとご相談したとき、彼女はインドの大きな石の台を茶盤にしようとか、拾ってきた竹を茶さじにしようとか、とにかく発想が自由で面白いんです。見立てる文化・世界という新しい感性に出会えたことで、この店においての仕入れやセレクトにも多分に影響を受けています。
●アイテムでもポイントになっている“お茶”を兜町に持ち込んだのはなぜですか。
(鈴木)兜町で普通のカフェを開く必要性を感じませんでした。周辺には、たくさんの素敵なカフェがありますので。そうした中で、作家さんからの影響もありお茶を選ぶというのが自然の流れでした。加えて、お茶の文化を兜町に広めていくことも面白いのではと。一般的にコーヒーは目を覚まさせるもの、対してお茶は落ち着かせるもので、時間の使い方と考え方が正反対のように感じています。
また、お茶はコーヒーみたいにテイクアウトして歩きながら飲むような文化ではありません。1煎、2煎と何度もお茶を楽しむため、物理的にも時間がかかってしまいます。そんなゆるやかな時間の使い方が、この街に今まで足りなかったものではと考えました。外国のお客様も増えていますし、お茶ならではの一服の落ち着きや、中国本土の淹れ方とも違う日本らしさ、そういう発信もできたらいいなと思っています。金融街という時間の流れが速い街だからこそ、お茶の文化に触れて、ゆっくりと一服してほしいですね。
(引田)「可視化飯店」の喫茶時間では、小曼さんが選定してくださった台湾茶を中心に4種の味わいが楽しめ、季節ごとに変わります。茶器は一式セットでお客様の前に置かれて、一緒に淹れていくスタイルです。茶器が小さいので、ひとりはもちろん、友達と来たときには皆さんで回しながら飲んでも楽しいと思います。
(鈴木)あと個人的に古道具とお茶は、すごく似ていると思っているんです。間口が狭く、難しい世界と思われがちな部分など。「CASICA KABUTOCHO」が展開することで、少しでもその間口を広げられたらという思いもあります。関心はあるけれど、難しそうに聞こえて、未体験で終えてしまうことって往々にあるかと。今回のお茶もそのひとつで、興味はあるけれどよくわからないという方に、ぜひ知っていただけるきっかけになれば嬉しいですね。
●お二人がこうしたモノへの興味、ディレクションの仕事に辿り着いた背景を教えてください。
(鈴木)昔から古いものがなんとなく好きでした。そして、20年前ぐらいにアルバイトをしていたパン屋が潰れ、勢いで買い取ったというのが今に至る始まりです(笑)。自分の店ならば自由に設計できるという甘い考えのもとに始めてしまいました。それからというものの、内装設計で古材を使ったり、古い家具を誂えたり、アンティークのドアノブに変えたり。はたまた海外で古物を仕入れ、店で売ってみたりと、どうにかこうにかして、切り盛りしていました。でも、その経験値が、飲食動線から機械設備、インテリア、経営数字、フード作成までの全部を理解できる強みになり、ディレクションのお仕事にもつながっていったんだと思います。
(引田)私の場合は、親がギャラリーをやっていたことが大きいですね。母が作家さんにオファーをしたりプレゼンテーションをしたり。そういうことを目の当たりにしていたので、モノに対しての興味はずっと影響を受けてきたと思います。
あと鈴木の話なのですが、彼と出会いたての頃、ものすごくジャンクな競馬場のフリーマーケットへ一緒に行ったことがありまして。私は当時そこまでアンティークに詳しくなかったのですが、彼は「1万点のゴミの中に1点の宝がある」という言葉を残して、もくもくと宝探しをしているんです。そして、大量の雑貨品の中からとても可愛い北欧風の花瓶を「500円だった」と言って持ってきたんです。彼だけに見える宝があるんだな、というのをその頃からずっと感じていますね。
(鈴木)本当にそんなこと言ってた!?(笑)
(引田)言ってた(笑)。ディレクション業って、雑貨やインテリア、内装、フードなど普通は別々に請け負うものですよね。でも、彼はそのすべてをひとりで見られて、全体のディレクションができる。そういうプレイヤーは、あまりいないと思っていて、そこはすごいなと、パートナーながら感心しています。
(鈴木)どうやらそれが役に立っているみたいですね(笑)。自分的には単に古いものが好き、という出発点から、変わらずここまで来た感じです。僕にとって新しいものはどこか恥ずかしいみたいな感覚があり、洋服でも古着が好み。ジーパンを買っても、ぐちゃぐちゃに汚したり、土にこすったりして着ていたぐらいです(笑)。
●お二人にとって、兜町という場所はどんな存在ですか。
(鈴木)仕事以外にも縁がある街ですね。K5のミニバー選定をさせていただいたり、居酒屋「MARUYAMA」の丸山さんとは以前から知り合いですし、ワインショップ&バーの「Human Nature」にも行きます。新木場では周りに仲間がいなかったので、横の繋がりがあることが純粋にいいですよね。
(引田)新木場は周りの物件も大きいサイズのものが多く、お店が新たに増えることはなかなかないですが、こっちではイベント後に夜の街に繰り出すことも多いですね。結局「Human Nature」に落ち着いてしまうんですけど。
●今後、「CASICA KABUTOCHO」をどのように育てていきたいですか。
(引田)新木場店同様にこちらでもイベントを開いていきたいですね。台湾アパレルのポップアップや、アジアの作家さんの個展などを少しずつできたら考えています。喫茶の時間についても、今は第1段階としてお茶のみを提供していますが、第2段階では料理と合わせたお茶の出し方も徐々に進めていこうと思っています。小曼さんとも「料理があるなら、料理と合わせたお茶の出し方にしてみたら」という話をしており、飲茶のような、つまみながらお茶を楽しめるスタイルも考えています。
(鈴木)僕は、買い物の楽しさを最大限に表現したいというのが根っこにあります。海外のマーケットに行ったときは、何があるんだろうというワクワク感がいちばんの醍醐味。そういう期待感を「CASICA KABUTOCHO」でも表現し続けていきたいと思っています。直近では、無機質なエントランスを少しにぎやかにし、蚤の市のような開けた感じにアレンジするつもりです。ちょっとずつ何かを変えながら、お店に訪れる楽しさを、伝えていければと思っています。
鈴木善雄/Yoshio Suzuki
CIRCUS共同代表。飲食、内装設計・施工、空間ディレクションを手がける。新木場の「CASICA」を9年前に立ち上げ時より参画し、古物・アンティークを中心としたセレクトとボリューム感ある空間演出で独自のスタイルを確立。「CASICA KABUTOCHO」では古物の買い付けと全体のディレクションを担当。
引田舞/Mai Hikita
CIRCUS共同代表。作家へのオファーやプロダクトのセレクトを担当。両親がギャラリーを営んでいる環境で育ち、暮らしや器、作家との対話に深い関心を持つ。「CASICA KABUTOCHO」では茶器作家とのコラボレーションや空間づくりに携わる。
Interview&Text : Takuya Kurosawa
Photo : Masahiro Shimazaki
鈴木善雄・引田舞
CIRCUS
沼田 恵梨子
フードディレクター(「CAFE DANCE」監修)
兜町の気になる人
昔からの友人なのですが、いつ会っても本当にパワフルで様々な夢に向かって邁進していて、刺激をもらっています。料理人としての視点だけでなく、世界中を旅してきた彼女だからこそ生み出せる世界観にいつもワクワクしています。
