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中山拓海・村上和駿
中山拓海・村上和駿

2023.12.08

中山拓海・村上和駿

サックス奏者 / JAZZ SUMMIT TOKYO代表取締役 (中山)・ドラマー / JAZZ SUMMIT TOKYO取締役 (村上)

イノベーティブな風が吹く街
兜町から広がるジャズとスケール

なぜ、国際金融都市はジャズを必要とするのか。ニューヨークのウォール街、ロンドンのロンバード街、金融とともに発展を遂げてきた街の傍らにはいつもジャズがある。ベースラインがビルの輪郭を浮かび上がらせれば、サックスの音色が街の灯をともし、ドラムのリズムが日常の雑踏を彷彿とさせる。同時代を生きる人々と共鳴するメロディとサウンドは街を映し、即興が今という時間を紡ぎ出す。
日本橋兜町では、2018年から「JAZZ EMP(Emerging Musicians Program)」が毎年開催され、今年からはKABEATでの「MONDAY JAZZ」と、B by the Brooklyn Brewery(以下、B)での 「UNDER JAZZ」も始まった。今回は、兜町の地で広がりを見せるジャズとそのスケールについて、「JAZZ SUMMIT TOKYO」代表のサックス奏者である中山拓海さんと、ドラマーの村上和駿さんにお話を伺った。

●2018年に東京証券取引所で始まった「JAZZ EMP」(今年は12月10日にKABUTO ONEで開催)は、国内のジャズミュージシャンたちに表現の場を創出しながら、国際金融都市に見るイノベーティブな風を兜町にも吹かせることに一役買っていますね。JAZZ EMP実行委員会の東海林正賢さんにお話を伺った際、「金融とジャズの接点創出、兜町のブランディング、そして何よりも、ジャズ業界と金融業界の抱える課題解決を背景に立ち上がったプロジェクトなんです」とおっしゃっていたのが印象的でした。
(中山)第1回のJAZZ EMPには私も奏者として参加していました。コロナ禍を経て、2022年12月の街歩きイベント「兜町夜市」ではJAZZ EMPが従来のベニューである東京証券取引所を飛び出し、KABEATで演奏したのが好評をいただきました。個人的に会社を立ち上げるタイミングもあり、オフィスも兜町に構えて、今年4月からKABEATでの「MONDAY JAZZ」(2カ月に一度、月曜夜に開催)がスタートしました。

●ジャズと聞くと、難解でとっつきにくいのではないかという、敷居が高そうなな印象はあるかと思います。そんな中、金融をはじめ周辺にオフィスの多い兜町という場所で、平日の夜にKABEATや「B」でジャズのライブが始まったことで、仕事帰りの人も気軽に本格的な生演奏を楽しめるようになってきつつあるように感じます。
(中山)おっしゃる通り、ジャズは難解で近寄りがたいイメージがあり、若手の活躍の場が少ないという課題もありますが、スポンサーさんがついてくださっていることでお客さんがライブに来場するハードルが下がり、ミュージシャンにもギャラを渡すことができています。兜町の活性化がK5というホテルに端を発し、その周りに食を中心にアートギャラリーなどの多面的な要素が街を立体構成する今だからこそ、「MONDAY JAZZ」、「UNDER JAZZ」(「B」で毎月第1火曜日に開催。1月はお休み)のようなイベントでジャズを身近に感じることができるようになってきた。いいタイミングだったと思います。

(村上)観客の反応もすごく温かいんです。スポンサー企業の方々も最前列で楽しんでくださっているのを目にしますし、ミュージシャン目線でも演奏しやすい環境です。

●拍手のタイミングや歓声、観客がつくる空気感も演奏に大きく影響しますよね。
(中山)店に入った瞬間から、ミュージシャンと観客が一緒に没入していく感覚がわかるような店には、お客さんを育てているいいマスターがいるんです。

●先日、岩手のジャズ喫茶「BASIE(ベイシー)」へ行く機会があったのですが、そこのマスターも入ってきた人を見てレコードを選曲しているそうです。独りよがりではなく、オーディエンスとともにあり続ける姿勢がすごいなと。
(中山)僕も学生時代に一度訪れたことがあるのですが、マスターから急に「演奏してみろ」って言われて(笑)。ドラムと一緒にサックスを吹いたのですが、その後にかけてくれたレコードが、僕とドラマーが最も敬愛するアーティストたちが共演している音源で驚愕したことがありました。

●マスターが店の環境で再現する生よりも“生”な音楽体験は、マスターが当時体験した演奏を、言わば「タイムマシーン」のような形で若い人たちに伝えている。街がジャズを育てるみたいな話で、空気感を引き継ぐような体験を喫茶店という場が発信することで、ジャズの系譜は引き継がれてきたのかもしれません。
(中山)やっぱり、そういった原体験が大事だと思うんです。ミュージシャンが何一つストレスなく音を出せる環境があったからこそ、僕自身もジャズにあこがれをもつことができた。そういう環境をつくることが「JAZZ SUMMIT TOKYO」の一つのミッションだと思っています。路上でたまたま見かけるのと、事前に情報を得て美味しいご飯を食べながらいい音響で楽しむのとでは音の受け取り方も異なるので。

●「JAZZ SUMMIT TOKYO」立ち上げのきっかけは?
(中山)ミュージシャンと演奏の場をつなぐことの重要性に気づきはじめていたこともありますが、ジャズ人口の高齢化を感じながら、僕らの時代のジャズがどんなものになるのかと漠然と考えていたんです。それで、「生の音楽を発信したいけどできないミュージシャン」と「生の音楽を鑑賞したいけど観られない観客」のマッチングが今こそ必要だと、2019年に「JAZZ EMP」に出演していた村上くんにも参画してもらい、2021年4月に立ち上げました。「JAZZ SUMMIT TOKYO」では、高音質高画質でオリジナルのジャズライブ映像を楽しめる配信サービスなどを展開しています。

●会社を立ち上げたことで気づいたことはありますか?
(中山)ジャズって個人主義な音楽なんですよ。ロックとかポップスはバンドとして一緒に動くと思うんですけど、ジャズは今日と明日で演奏するメンバーが異なったりする。そういう構造のなかに個人ではなく法人としてできることがあるのではと思うようになり、実際に兜町でライブをするなかで社会的意義も芽生えはじめて。

(村上)ジャズには歴史と伝統がありますけど、それを知る僕たちが新たな間口になることで、兜町の空気感を一緒に成長させながらジャズの新たな側面を知ることができるのではないかと思っているんです。

(中山)兜町には魅力的なベニューがたくさんありますし、食とジャズの相性もいい。「MONDAY JAZZ」と「UNDER JAZZ」とでは演奏に幅をもたせています。

●演奏する楽曲にはどのような違いがありますか?
(中山)ガラス張りで外からも視認性がいいKABEATは、ポップスからラテンなどの季節感を感じられる曲までさまざまなバリエーションで演奏できますし、幅広い客層にはトラディショナルな楽曲が合う。それに対して、地下にある「B」では、都内有数の音響設備を完備していることもあり、ダンサブルでファンキーな楽曲を大音量で演奏することができる。その場に合った空気を届けることを意識しながらミュージシャンをブッキングしています。

(村上)僕自身、もともとジャズ畑というよりは、さまざまな音楽を通してジャズに出会っているので、KABEATでもそういった多様な音楽に予期せず出会うところからジャズを知ってもらえるのがいいなと思っています。それも、ライブハウスのクオリティで。

(2023年6月19日にKABEATで開催された「Monday Jazz」のライブ映像)

●KABEAT自体も多種多様な生産者さんの食材が日本中から集まる場所ですし、料理が音楽に作用することもあれば、その逆も然り。演奏中でもQRコードで注文できるところも気が利いていますよね。
(中山)ジャズは観客とインタラクティブな音楽なので、KABEATでは落ち着いて聴いてくださいますし、「B」はもっと距離が近くて、それぞれ楽しんでいただいている印象です。

●敷居が高いと思われがちなジャズを街に溶け込ませる上で、どのようにイメージを変えていきますか?
(中山)どちらかと言うと、自分たちの姿勢次第な気がしています。ジャズもアートの部分は絶対に必要ですけど、それをどこまでエンタメとして見せることができるかだと思っていて。結局、人間同士の付き合いじゃないですか。ミュージシャンがただ演奏して帰るのではなく、どれだけ人と人をつなげられるか。KABEATと「B」には美味しい料理があるので、せっかくなら一緒に話をしながら、アーティストとオーディエンスの垣根を越えた「音楽を共有するコミュニティ」として成長させていきたいんです。

(2023年10月29日開催の兜町夜市ミュージックフェスでは、中山さんはKABEATでギターの鈴木直人さんとともに演奏)

●ジャズ界の課題があれば教えてください。
(中山)キャパシティが課題です。丸の内のCOTTON CLUB、BLUE NOTEのような箱でも多くて300人ぐらい。ジャズってどうしてもキャパシティが小さいんです。「今夜は50人埋まったから成功だね」とか、どうしても従来のイメージに固執してしまう。でも、アリーナでツアーをしたロックミュージシャンからすると、どんなにギターを歪ませたとしても300人の箱はアコースティックでしかない。その感覚こそ、今のジャズ界に足りない部分ですし、今こそジャズミュージシャンの意識改革が必要だと思っているんです。

●兜町だから叶うこと、についての展望は?
(中山)音楽のB to Bだと思います。これまでの音楽はどうしても個人向けに発信されてきたと思いますし、個人間で消費されるモノでした。そこを企業にスポンサーになっていただくことで、B to Bを成り立たせることができるのが兜町ですし、それがこの街の活性化にもつながっている。150〜300人ほどのキャパシティでどんな景色が見えるのかは次のステップですし、この渦をどんどん大きくしながらジャズを通じて街をもっと面白くしていけたらと思っています。

(村上)僕らの周りにもジャズを続けながら仕事をしている人は多いですが、演奏は二の次になってしまっている。まずは、一つの成功ケースをつくりたいですよね。それがあって、今度は兜町でもっと実験的なことで文化を推し進める土壌をつくっていきたいです。


Jazz EMP@ Tokyo Financial Street 2023

日時:2023年12月10日(日) 12:00~18:00
会場:KABUTO ONE 4F ホール(地下鉄東西線茅場町駅 直結)

日本橋兜町・茅場町に、Emerging Musicians=若手の精鋭ミュージシャンが一堂に会し、この日限りの特別な音楽をお届けするJazzイベント「Jazz EMP(Jazz Emerging Musicians Program)」。
今年は兜町の新たなランドマーク、KABUTO ONEで開催。

オンライン視聴チケット(無料)のお申し込みはこちら(入場券は申込終了)https://teket.jp/8457/29220


中山拓海・村上和駿

中山拓海

Takumi Nakayama

1992年、静岡県生まれのサクソフォニスト。国立音楽大学を首席で卒業し、大学時代は早稲田大学ハイソサエティ・オーケストラに在籍。多数の受賞歴をもつ。海外ツアーにも参加するなど国内外で精力的に活動しながら、2019年にメジャーデビューを果たす。2021年4月、「JAZZ SUMMIT TOKYO」を設立し、代表取締役に就任。「MONDAY JAZZ」、「UNDER JAZZ」では、ミュージシャンとオーディエンスのマッチングの場を創出。その経験と高い視座でジャズの魅力と新たな可能性を引き出している。

中山拓海・村上和駿

村上和駿

Kazutoshi Murakami

1994年、神奈川県生まれのドラマー。国立音楽大学ジャズ専修を卒業後、同大学打楽器ソリストコースを修了。ジャズ、クラシック、ミュージカル等のサポート活動を行いながら、自身のライブ活動を精力的に展開。島村楽器では講師も務める。JAZZ EMPへの参加を経て、中山拓海とともに「JAZZ SUMMIT TOKYO」の運営に加わり、取締役に就任。ジャズ演奏家のオンラインでの活動サポートなど、演奏者の視点に立ちながらミュージシャンの社会参画に寄与している。

Text : Jun Kuramoto

Photo : Naoto Date

Interview : Jun Kuramoto