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岡雄大・本間貴裕・松井明洋
岡雄大・本間貴裕・松井明洋

2021.06.12

岡雄大・本間貴裕・松井明洋

K5 Founders

The more local, the more global.
都市と自然と人々の交差点

大都市を中心に拡大したCOVID-19は、私たちから日常を奪い、都市生活を再考させた。新たな生活様式を手に入れるために一つの街から都市の景色が変わるとすれば、どんな形がありえるだろう。春の光に包まれた穏やかな空気漂うホテルの一室にて、K5の企画、開発、運営を担ったファウンダーの3名に、これからの都市のあり方と自然との距離感、そして人々の行動がつくり出す未来について、ファウンダーの一人でもある松井(Kontext編集長)から改めてインタビューしてもらった。

●(松井)今回は特別枠ということで、Kontextのインタビューにご参加いただきたいのですが、ここでは、これまでインタビューで話してきた“どのようにしてK5ができたか”ではなくて、“K5を今後どうしていきたいか”、“自分たちがそれぞれやっているプロジェクトとK5がどのように関わっていくか”というところを前提にお話できればと思うのですが、もう出だしはこの質問に決めていて、オープンして1ヶ月で休業するなんて想像していましたか? コロナをどう考えますか?

(岡)コロナが問題を早めに突きつけてくれたように思います。アメリカが様々な人種が混ざっている意味で“サラダボウル”と表現されているのと一緒で、K5もマイクロコンプレックスとして立ち上がったんですが、複雑に混ざり合って新しい価値を生み出すという視点があるなかで、ただ同じ建物内に店舗が集まった空間をつくるだけでは意味をなさないという葛藤に直面していました。そういった部分で店舗からも声が上がったのですが、それが早期に訪れたことで、いずれ顕在化した課題に取り組むことができたし、その過程で信頼関係も結ばれた気がします。

●(松井)コロナがあったからこそ信頼関係がより強固なものになったということでしょうか?

(岡)共通の脅威に晒された時に初めて全員でその脅威に立ち向かうという意味では結束力が生まれたし、生物学的なものを感じました。それぞれ個性が際立った人たちが集まっているK5だけど、脆弱なところを全員でカバーし合うという思考に変化していったような気がします。

(本間)はっきり言って、僕はあまりコロナに思うところはなかった(笑)。地震だろうが、台風だろうが、何でも起こりうる世の中だし、Backpackers’ Japan(※1)はもう10年になるけど、最初にリーマンショックがあって、その後に震災が来て。なので、基本的に残るものは残るし、その逆も然り。1年後なのか2年後なのか、先が見えない部分がしんどいのは当然あると思いますが、K5って生まれ方が良かったから。

※1 Backpackers’ Japan
「あらゆる境界線を越えて、人々が集える場所を」という理念のもと、ホステル・カフェ・バーダイニングを企画・運営する会社

岡雄大・本間貴裕・松井明洋

(左から)岡雄大・松井明洋・本間貴裕

●(松井)生まれ方というと? 3人で定期的に集まってお金の話をしたりして、でも本当に大変な状況に陥るかもとヒヤヒヤしたところもあったと思うのですが、それを生まれ方の部分がカバーしてくれたということでしょうか?

(本間)仲の良い3人が集まって、それぞれ仲の良い人たちを呼んで。結構、この“生まれ方”がほとんどの運命を決めるぐらい大事だと思っていて。CKR(※2)もADX(※3)も楽しんでつくってくれたし、最終的に良いものができたのでバックボーンだって強いし、80点採るのか120点採るのかって話して、基本的には上手くいく。あとは誤差の範囲内だと思っていて。もしかしたら本当のやばさを認知してない自分がいるのかもしれないけど(笑)、それは裏返して言えば雄大(岡)がいてくれたからで。数字の部分を任せっ放しにした反省の部分もありますが、そこは信頼があればこそ。色んなプロジェクトが同時多発的にある中でSOIL SETODA(※4)のオープンもあって、よく器用に動けるなと感心するばかりで。一気通貫したものなのか、分散型なのか、その辺りのバランス感覚が気になりますよね。

※2 CKR
Claesson Koivisto Rune(クラーソン・コイヴィスト・ルーネ)は、1995年にストックホルムで結成された、モーテン・クラーソン、エーロ・コイヴィスト、オラ・ルーネの3人によるスカンディナヴィアを代表するデザインユニット

※3 ADX
「自然と人を繋ぐ」が理念の安齋好太郎率いる建築チーム

※4 SOIL SETODA
岡雄大が代表を務めるInsituが手がけるレストラン、宿泊施設、ラウンジスペースを携えた複合施設。地域の人や旅行者が気軽に訪れ、食事や仕事をすることのできる街のリビングルーム

●(松井)一つのプロジェクトだけであればある程度想像がつくと思いますが、様々なプロジェクトをどのようにハンドリングしていますか?

(岡)SOIL SETODAとK5を繋げようとすると無理があるような気がするんですが、K5はK5なりの文脈があって色々繋がったと思うし、それぞれがその時一番輝けることをしただけというか。僕の場合、開業までのマネジメントがそれで。得意不得意がはっきりしている3人だったので、今こうやってKontextというメディアが立ち上がったのだってそうだし、それぞれが役割を買って出ていますよね。

ホテルをつくっている僕たちは50年後、100年後に世界中からお客さんが訪れられるような状況を今からつくっていかなければならないと思うんです。(岡)

●(松井)SOIL SETODAはどのようなコンセプトだったのでしょうか?

(岡)2つテーマがあって。一つは、ローカルをグローバルマップに載せるということ。もう一つは、ローカリゼーション。世界地図に街が載る理由って、歴史的な意義があるとか、ある程度の人口や経済圏があるとかだと思うのですが、それ以外の理由で載る役割を果たせるのは、ホテルしかないと思っていて。なぜなら、ローカルだけでなく、日本中、世界中から泊まりに来るためのものだから。その土地の生活や風土、文化が体現されているというのが、自分がホテルをやる上でずっと考えていたことでしたし、K5はそこに上手くはまったと思っています。

●(松井)本質的には同じことをやっているわけですね。一方で旅行者が旅に求めるポイントも重要だと思うのですが、ローカリゼーションを推し進める上で、その辺りはどう考えていますか?

(岡)ホテルとしては、来てもらいたい層にアプローチするよりも、その土地を深掘りしていくことに注力していたい。結局、突き詰めた先にあるのは、家族や仲間と世界の“未だ見ぬモノ”を求めて旅をしていたいということで、旅する理由を持てる世界であってほしいじゃないですか。気候変動が起きて、スウェーデンを始め、世界各地で環境運動が起こり、旅すること自体がネガティブになってしまった。世界中の街や都市が均質化に向かうこと、旅という行為が環境に悪影響を及ぼしてしまうこと、この2点をクリアしない限り、人類は旅をし続けることはできなくなってしまう。だから、ローカリゼーションで言うと、ホテルをつくっている僕たちは50年後、100年後に世界中からお客さんが訪れられるような状況を今からつくっていかなければならないと思うんです。

●(松井)そのためには、今の私たちにどんな行動が必要になってくると思いますか?

(岡)農家、クラフトマン、アーティスト、生活者のローカルでのアウトプットの場をもっと増やしていかなければならないし、それがやがてローカルで活動する人たちへのインプットに繋がるような仕組みを築いていかなければと思います。それをホテルをつくる責任として地域で推進していくし、エネルギーや食も暫定ですが80%を掲げ、ローカリゼーション運動として推進していく。ホテルの資材もインターネットを通してプログラミングコードを入れ、効率的にプレカットしたり、3Dプリンターを使用して仕入れる一方で、なるべくローカル素材や間伐材を使用する。料理と一緒です。グローバルな見解でローカル素材を最適に調理し、一番美味しい状態で出すイメージ。こういったことがスタンダードになれば、50年後もクリーンになってくると思うんです。

旅行すればするほど自然が循環し、人々の感性が塗り変わっていく。人々が活動することで回復に向かう未来もあると思うんです。(本間)

●(松井)コロナ以前、コロナ以降で考えるのはナンセンスとも思うのですが、先ほど気候変動の話が出たように、そもそも飛行機に乗る行為自体が環境的にどうなの?という声もある中で、旅の仕方や体験に対する対価の払い方にも変化があると思います。K5が各々の旅に影響を与えるとしたら、どんなことがあるでしょうか?

(本間)SANU(※5)との共通点で言うと、“Returning to Nature.” 自然に還るというのをデザインコンセプトに掲げていて、そのベースが東京証券取引所の裏で起こり、その建物が目指す景色があるとすれば、東京がよりメトロポリタンになっていくのではなく、緑に溢れた自然に還っていくこと。それが兜町という金融街のど真ん中からホテルを起点に起こるのが面白いじゃないですか。でも、都市への自然の持ち込み方がシンガポールのビルみたいにAIを導入して都市でも自生可能な植物を増植するというよりは、もっと感性の部分。つまりは人の認知の問題で、東京に緑があると気持ちが良いと思えることが大事だと思っていて。より多くの人がK5の緑から空や海を想起して、東京でも案外心地良いじゃんと思ってもらえる、それが僕の中のK5なんです。SANUも日常の中に自然を取り入れるという意味では一緒で、デザインの文脈でそれを実現しようとしたのがK5だとすれば、都心にいる人々を自然に連れ出そうとしているのがSANUで。その中で感性が培われ、自然を守るという意識が芽生えていく。自然の脅威というよりは、豊かさや美しさを伝え続けることによって、その光をより多くの人に届けることが、これまで一貫してやってきたことです。

※5 SANU
SANUは、人と自然が共生する社会の実現を目指すライフスタイルブランド。豊かな自然の中のセカンドホーム・サブスクリプション事業を展開する

●(松井)これまでの旅行における都市と自然との関係をどう考えていますか?

(本間)ストレス発散? 今までの多くのリゾートホテルって、働いている人たちが都心で溜めたストレスを発散しに行く場になっていた気がするし、発散する場所の未来なんて考えていなかったと思うんです。なぜなら、一度きりしか行かないから。でも、溜めたストレスの矛先ではなく、旅は日常にあった方が良いんじゃないかと思って。例えば、10時間かけて旅行していたのを、1時間で行ける身近な海山に変えてみるとか。繰り返し行くことで自然がようやく見えてくる。初めてハワイに行った人がどんなに海が綺麗だったと言っても、昔から住んでいる人から言わせれば汚くなっているわけで。定点観測することができれば、アクションも変わってくる。繰り返すことが重要なんです。だから、これまでの旅の代替案として身近な旅行先というのを提案していて。

●(松井)旅に限らず、洋服にしても何にしても、資本主義ベースで動くことで結局ネガティブなダメージがあるわけじゃないですか。その辺りはどう考えますか?

(本間)蜂は、蜜をつくるために花から花粉を採るのが仕事じゃないですか。でも、その行動自体が自然を豊かにする役割の一端を担っている。かつては人間も山に入れば山を豊かにしていた。木を切ったり、植物を摘むことが循環の一部として成り立っていたんです。でも、行き過ぎた資本主義がその歯車を狂わせ、終いには悪循環となり自然を壊してしまっている。人間の生活を支えるサプライチェーンが肥大化してバックグラウンドが見えなくなってしまったのが問題で、かつてのようにその歯車を組み直し、人間が活動すればするほど自然が豊かになるような仕組みを取り戻すことは、僕はできなくはないと思っています。旅行すればするほど自然が循環し、人々の感性が塗り変わっていく。人々が活動することで回復に向かう未来もあると思うんです。

●(松井)K5を始め、ローカリゼーションにしても、繰り返し同じ場所に行くということにしても、それぞれがこれまでやってきた事業を振り返ると、都市に住む人々と自然との乖離を埋めていく一貫した方向性が見えてきますね。

(岡)SOIL SETODAでは、ローカルソーシングの比率を適正なところに置くことで、元々の自然と人々との生活経済における循環を適正値に戻すことを狙っています。今は、それが人々の生活コストに上乗せされてしまっていることが問題ですが、資本主義下で大企業が儲かるシステムだからそうなっているだけで、それが普通の世の中を変えるなら、政治家、官僚、もしくは総理大臣になるか、それとも今僕たちがやっているように、衣食住を司る業態の延長線上でそのモデルケースとしてやっていくか、それで迷わず始めたんです。

●(松井)K5ができて一年が経ち、雑誌に載ったとかではなくて、コーヒーを飲むにしても色々と選択肢が増えてきたように思います。街に訪れる人々に変化が起きてきている中で、今、兜町という街に求める姿があるとすれば何があるでしょうか?一つの街を見た時に、僕らとしては、最小単位の「人」が街をつくっていくという文脈からマクロに展開して街全体をイメージしているのですが、二人のまた違った視点があれば教えてください。

(本間)個人的には、僕らがおじいちゃんになるまで遊べる場所であってほしい。3人集まった時に楽しく飲める場所。でも、それが原点として街に昇華されたときに、どんなことが起こるのか。これまでは、出生地などのしがらみの中で活動しなければならなかったけど、僕らの時代って自分が住みたいと思う場所に住めるし、そういったしがらみから離れて、どんどん街の色を出していけると思うんです。その意味で、今この兜町って仲良しが集まって街をつくっている。だけど、内向的ではなく、街としてオープンに構えることができれば、新しい形で街が動き出すと思うんです。蔵前のNui(※6)はそれが偶発的に起こったんですが、K5ではそれを意図的に起こしているのが面白いところで。

※6 Nui
Backpackers’ Japanの手がける蔵前のホステル、バーラウンジ

(岡)まだ兜町という街に緊張感があるのかもしれませんが、そもそも街というのはエントリーし易くあるべきで。全ての門をくぐれるような街になっていくと良いなと思います。住みたい街っていう切り取り方もあるのかもしれません。僕は今、瀬戸田に住んでいますし、定点観測しながら街を見るなら、やっぱりこの兜町という街に住んでみたいです。

街づくりって、全てを完成させてしまうのは違うと思っていて、あくまでも補助線を引くところに留まるというか、そうすることで輪郭が徐々に浮かび上がってくるというか。(松井)

●(松井)街づくりって、全てを完成させてしまうのは違うと思っていて、あくまでも補助線を引くところに留まるというか、そうすることで輪郭が徐々に浮かび上がってくるというか。ヒロ(本間)は街を構成する要素として面白いと思う組み合わせってありますか?

(本間)野菜とスケートボード! 東京ってスケートできる場所がほぼないじゃないですか。兜町周辺には公園や広場が沢山あるわけだし、そもそもスケートってストリートカルチャーの最たるもので、資本主義のスタートには農家がいて。それがこの金融街で融合すれば、すごく面白いものになると思いません?スケートしている人が野菜を買っている風景。証券取引所の下でそんなことが起これば、それだけでクールだなって。

●(松井)では、最後の質問です。K5に敢えて名指しして泊まってもらいたい方はいますか?因みに、僕はブラッド・ピットなんですが(笑)

(本間)ハハハっ!良いですね(笑)。僕はやっぱり、このメンバーですかね。松井さんと岡さんです。

(岡)感性の部分で考えると、ローカリゼーションと言いつつ、ローカル資源をグリット内で動かしている分、情報と人の移動が必要だと思っているので、瀬戸田の人たちでしょうか。やっぱり東京に来たらK5を見てもらいたいし、引っ越す場所を選べる世の中になってきているので、都市間を行き来したりしながら趣味嗜好が地域でずれていることを前提に、その感覚を楽しむのが良いなと。なので、それぞれの地域が目指す価値観のずれ、即ち、地域の特徴というものが研ぎ澄まされると、どんどん面白くなって来ると思います。ブラッド・ピットはやばいですね(笑)。

岡雄大・本間貴裕・松井明洋

岡雄大

Yuta Oka

早稲田大学卒業後、米Starwood Capital Groupの東京及びサンフランシスコオフィ スにてホテル・不動産投資に従事。その後 Aman ResortsやSix Senses Hotels Resorts Spasの経営企画を経て2016年にInSitu及び ナル・デベロップメンツを創業。
InSituは東京とシンガポールにオフィスを構え、ホテルの企画・開発・運営を一気通貫で行うインターナショナルチーム。国外ではバリやイタリアにてスモールホテルをオープンしており、国内ではホテルに留まらず農業やエリアマネジメント事業へも参入し、「ホテルをきっかけにローカルをグローバルマップに載せる」という理念を掲げてきた。国内においては日本橋兜町「K5」や尾道市瀬戸田にオープンした「Soil Setoda」の企画・開発・運営を担当。

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本間貴裕

Hilo Homma

2010年、「あらゆる境界線を越えて、人々が集える場所を」を理念に掲げ、ゲストハウス・ホステルを運営するBackpackers’ Japanを創業。同年、古民家を改装したゲストハウス「toco.」(東京・入谷)をオープン。その後「Nui. HOSTEL & BAR LOUNGE」(東京・蔵前)、「Len」(京都・河原町)、「CITAN」 (東京・日本橋)、「K5」(東京・日本橋)をプロデュース、運営する。「Live with nature. / 自然と共に生きる。」を掲げるライフスタイルブランドSANUのFounder。福島県会津若松市出身。サーフィンとスノーボードがライフワーク。

岡雄大・本間貴裕・松井明洋

松井明洋

Akihiro Matsui

「日本橋兜町・茅場町再活性化プロジェクト」において、街づくりにおけるブランディングや誘致などのキュレーションを担当するメディアサーフコミュニケーションズ代表。Kontext編集長。

Text : Jun Kuramoto

Photo : Naoto Date

Interview : Akihiro Matsui