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日常を彩る、コーヒーと甘味のご褒美

その「一皿」、「一杯」は、どのようにして生まれたのか。店のシグネチャーを紐解けば、その店の感性や哲学、食材へのこだわり、生産者の姿勢まで見えてくる。フードやドリンクの背景にあるストーリーから、兜町を形作る点と点が線になる。

朝の仕事始めに飲むコーヒーから昼下がりの気分転換まで、兜町のブレイクタイムに心地よく寄り添ってくれるのが「SR Coffee Roaster & Bar」。第7回の「Dialogue of Food」では、深みのある豊かな味わいのコーヒーやカクテルと、それらのドリンクを絶妙に引き立てるおすすめのスイーツをご紹介。

スウェーデンで人気を博すコーヒーロースター兼カフェである「Stockholm Roast」の略称をその名に冠した「SR」。焙煎したコーヒー豆の卸売もおこなう本国チームとの共同運営という形をとり、真に上質な空間を追求している。焙煎士を務める佐藤権作さんは、兜町の店舗のオープン(2020年)にあたり、現地ストックホルムでコーヒー豆の焙煎トレーニングも受けたそう。

「北欧は浅煎りのコーヒーがメインと聞いていましたが、実際には深煎りもとてもおいしい。甘いものを食べながらコーヒーを飲む『フィーカ』の文化でも知られるように、コーヒーの消費量が多いんです。時間があれば、お酒よりもコーヒーをお供に会話を楽しむ印象でしたね」。ここ兜町の店舗でも、入り口に置かれた焙煎機で丁寧に焙煎をおこない、香り高く味わい深い一杯を提供している。

●コーヒー
ドリップコーヒーは、日替わりで5種類の豆の中からお好みのものを選べる仕組み。

「SR」では日本に仕入れる豆の選定をおこなったあと、どのようなアプローチで焙煎するのかを本国チームと確認しながら決定し、至高の状態に近づけていく。「『Stockholm Roast』が生産者から仕入れるコーヒー豆はクリーンで甘みもありつつ、後味がすっきりしたものが多いです。なので、そのよさが出るような焙煎にするように心がけていますね」と、佐藤さん。

「コーヒー屋なので、“コーヒーはおいしくて当然”というのが、我々の基本的なスタンス。そのためそこは最低限クリアしつつ、おいしいスイーツや音楽、カウンターに並ぶ本などで、いかにお客さんに楽しんでもらえるかを考えています」。店で焙煎されたコーヒー豆の購入も可能だ。

●ドリップネグローニ
「SR」には、コーヒーを使ったカクテルメニューも。ジントニックとアイスコーヒーを合わせた「SR ジントニック」や「エスプレッソカクテル」、また写真の「ドリップネグローニ」が、時間帯を問わず注文できる。

ジンとベルモット、カンパリが調和するビターですっきりとした味わいのネグローニをコーヒードリッパーに通して、ふくよかな香りを付与。「豆は粗めに挽くのがポイントです」と、佐藤さんが教えてくれた。カンパリとコーヒーの苦味が呼応したテイストと、強い柑橘の香りにコーヒーが奥行きと落ち着きを加えるフレーバーがポイントだ。

●キャロットケーキ
さて、これらのドリンクとともにぜひ楽しみたいのが、多彩な甘味の数々。「SR」は有楽町にある企業内のカフェの運営にも携わっていて、製菓担当の勝又美穂さんは、そこにあるキッチンで、日々スイーツメニューの開発に取りかかっている。

しっとりとしたリッチな食感が特徴のキャロットケーキは、大きめのピースながら、ひと切れをペロリと食べきれてしまいそう。その秘密が、優しい生地の味付けと、バターを使わないアイシングクリームだ。

「通常はバターを入れて作るものですが、ここではクリームチーズとレモン汁、砂糖のみで構成していて。酸味が効いてあっさりするので暑い日でも食べやすく、コーヒーはもちろん、まろやかなラテに合いやすくなるんです。あとは“ほぼニンジンでできている”といってもいいくらい大量のニンジンをすりおろし、レーズンとくるみをたっぷりと。シナモンにナツメグ、カルダモンといったスパイスもふんだんに使用しているので、ニンジンの青みを感じる心配もありません」
生地には米油を使い、素材それぞれの風味を穏やかにまとめあげて、デイリーなトリーツとして楽しみたい仕上がりに。

●バナナブレッド with ミルクアイス
「コーヒーと一緒に、朝食としても楽しめるメニューを」と考えて作られたバナナブレッドは、オプションでオリジナルの手作りミルクアイスクリームをのせて。

こちらにもたっぷりのバナナを使い、黒糖を加えて、まろやかでフワフワとした食感を実現している。店内で軽くトーストすれば、カリッとした表面としっとりした中身のコントラストが、絶妙なハーモニーを奏でるのだ。

ミルクアイスは、卵を使わずシンプルに仕上げた、素朴で柔らかな味わい。サーブ時にはカカオニブをトッピングし、カリッとした食感をプラスしている。バナナブレッドもアイスクリームも甘さ控えめなので、ちょっと贅沢に時を過ごしたいモーニングにはうってつけだ。
ちなみに「SR」の神保町店は“コーヒー&アイスクリームスタンド”で、より多くの種類のアイスクリームや、それらを使ったシェイクを楽しむことができるのだとか。

気持ちを奮い立たせたいタイミングと、ゆったり緊張をほぐしたい場面と。そのどちらにもフィットし、ブレイクタイムの質を高めてくれるのが「SR」のコーヒーとスイーツだ。双方が見事に調和し、変わらず待っていてくれる空間が兜町のここにある。

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佐藤権作

Kensaku Sato

1983年、北海道生まれ。後に仙台に移り、大学卒業まで仙台に滞在。その後、ニュージーランドへ語学留学し、帰国後は2年間、英会話講師として従事。コーヒー熱が高まり、その後、ワーキングホリデーでオーストラリア、カナダ、ニュージーランドと周り世界のコーヒーシーンを肌で感じる。帰国して清澄白河の焙煎所で働いた後、2020年からはニュージーランド・ウェリントンで知り合った加藤渉氏の「SR」にて焙煎士として従事している。

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勝又美穂

Miho Katsumata

1995年、長野県生まれ。学校給食の現場から「SR」に転職し、製菓担当に。有楽町のキッチンでつくったものを兜町や神保町、平河町の店舗に納品することもあり、そのタイミングで得られる現場からの反応に癒されている。スイーツの食べ歩きが昔からの趣味で、常に“食べる側”の視点をメニュー開発にも活かすのがモットー。素材の味を引き出した素朴な味わいのお菓子が好き。

Text : Misaki Yamashita

Photo : Naoto Date

Interview : Misaki Yamashita