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B by the Brooklyn Brewery
B by the Brooklyn Brewery

B by the Brooklyn Brewery

タコスが物語る、この地ならではの伝統と多様性

その「一皿」、「一杯」は、どのようにして生まれたのか。店のシグネチャーを紐解けば、シェフの感性や哲学、食材へのこだわり、生産者の姿勢まで見えてくる。料理の背景にあるストーリーから、兜町を形作る点と点が線になる。
「Dialogue of Food」の第5回では、ニューヨーク発ブルックリン・ブルワリーのクラフトビールが楽しめる「B by the Brooklyn Brewery(以下、B)」が提供する、日本橋らしさを備えた格別タコスを紹介。

地域密着型の個人経営から始まり、今やグローバルなクラフトビールブームを牽引する存在として知られるブルックリン・ブルワリー。その世界初のフラッグシップショップとして2020年に兜町「HOTEL K5」の地下に オープンした「B」では、醸造所が誇るビールとともに絶品のタコスをサーブしている。

メニューを監修するのは、日本橋エリアを中心に「北出食堂」と「KITADE TACOS」の複数の店舗の経営を手がける北出茂雄さん。「B」でキッチンを担当する益子健太さんとともに、昨年から展開中の「日本橋タコス」と、新たにラインナップへ加わった「江戸タコス」について、美味しさの魅力を語ってくれた。

「タコスという料理の特徴は“口内調理”。口の中で様々な食感や味わいが重なり、印象づけられていくところが醍醐味だと考えています」と北出さん。「僕の店では伝統的なメキシコ料理を忠実に再現するのではなく、あえて日本人の視点や感覚で解釈した“東京メックス(メキシカン)”を展開していきたいと考えていて。国産のトルティーヤにこだわるほかローカライズされた材料を使うなどして、わざわざメキシコから食材を輸入することなく、和のエッセンスを混ぜ合わせながら美味しいものをつくっていきたいと考えているんです」

●EDO Tacos 江戸タコス〈寿司〉

“江戸”の名を冠した一連のシリーズメニューの筆頭として登場したのが、こちらの通称“寿司タコス”。ひとつめが、トルティーヤにまぐろの手まり寿司をのせた、まさしくメキシカンと和食のフュージョン料理だ。

「まず、ブルワリーのマーケティングチームから『寿司タコス』というお題が出されたんです。どうしようかと考えて、試しに握り寿司をそのままトルティーヤでくるんで食べてみたら、意外といけた。実はトルティーヤって、お米との相性も悪くないんですよね。口の中で寿司とトルティーヤが混ざることを意識し、トルティーヤを細かく切ってフライしたものをのせて食感にバリエーションを持たせたり、アクセントとして山椒を加えたりしました。醤油をかけただけではその風味があまり感じられなかったので、ひと手間プラスし寒天状にして使っているところもポイントです」

打って変わって鯛を使ったピースでは、鯛茶漬けをイメージ。まぐろとは異なる白身魚の味わいを生かしながら、タコスに欠かせないエッセンスであるスパイシーさを、和の薬味で意識的に盛りこんだという。

「ゴマやしそ、ショウガにゆず。また、雪の下で育つトウガラシを使う発酵調味料の“かんずり”を使い、さまざまな刺激を混ぜ合わせました。とはいえ辛すぎるというようなことはなく、あくまで鯛のうまみを引き立てる役割を果たす程度に。メキシコ人が食べたら『もっと辛いソースをくれ』と言うような気がします(笑)」。外国人客の人気も高いというこちらのメニュー。香り高いトルティーヤが多彩な味わいやテクスチャーを見事に包みこみ、ひとつの料理として高い完成度を見せている。

●EDO Tacos 江戸タコス〈穴子の天麩羅〉

“寿司タコス”に続く江戸タコスプロジェクトの第二弾としてこの7月に登場したのが、穴子の天麩羅を印象的に配した一品。「“江戸”らしい食材とタコスを組み合わせようとみんなで話し、二番目に浮かんだのが穴子でした」。醤油やみりんを煮詰めてつくる穴子用のタレとして知られる甘い“ツメ”に、青のりマヨネーズを合わせて。衣にはビールを練りこんであるため、もちろんクラフトビールとの相性も抜群だ。

「すっきりとした喉ごしと味わいが油っぽさに爽快感を与えてくれるので、基本的にビールにはジャンクな料理がよく合うんです。アメリカでいうと、ハンバーガーやフライドポテトなどですね。なので今回も油を使い、穴子を天麩羅にしてマッチングさせました」

トルティーヤから大きくはみ出した穴子の配置は、調理を担当するキッチンからのアイデアだという。シェフを務める益子さんが、その時のことを振り返って教えてくれた。
「前月に登場した“寿司タコス”のインパクトが強かったので、せっかくなら今回もそれに負けないよう、大ぶりの穴子を使ってみてはどうかという話になったんです。穴子は皮の面をバーナーで炙ると臭みとぬめりが取れるため、必ず現場でひと手間加えるようにしています」

●Nihonbashi Tacos 日本橋タコス

赤と緑の色彩の対比が美しい“日本橋タコス”は、前述の“江戸タコス”の発想のさきがけとなった人気メニュー。具材として中に入っているのは、なんと紅生姜のかき揚げ天麩羅だ。「タコスの具材としては、酸味が強いもののほうが合いやすい」と北出さん。

「トルティーヤが酸味をうまく包みこんでくれるんです。個人的に昔から東京の立ち食いそばが好きなのですが、紅生姜の天麩羅はその定番。それで、“タコスと日本食材のかき揚げを組み合わせるなら、ぜったい紅生姜”と以前から決めていました。酸味の強さとオイリーさが共存する紅生姜のかき揚げは、タコスにもビールにもぴったりです」。具材の下にはスモークしたパプリカとチェリートマトのソースを塗って、ワンランク上の風味と香ばしさをプラスした。

今後も8月、9月と、店では立て続けに新たな“江戸タコス”のラインナップを発表予定。「江戸らしい猪肉やすき焼きを着想源に、今まで誰も味わったことのないようなメニューをお届けする予定です。北出さんの発想や提案は、いつもキッチンで働く僕らの期待をも超えてくるので、今後も楽しみにしていてください」と、シェフの益子さんがコメントをくれた。

北出さん自身にとっても、「B」で提供されるメニューの創作は大きな意味を持つという。「この店での新メニュー開発は“江戸や東京らしいエッセンスを盛りこむ”というだけにとどまらず、多様性やインパクトを重視した新たな挑戦ができる場として、僕自身も重宝しています。キッチンのメンバーも、僕のビジョンや要望を大まかに話すだけで即座に残りの部分まで理解してくれ、とても助かっていて。そんなユニークな挑戦を、“『B』らしさ”としてこの場で表現していきたいし、自分の中にも経験として蓄積していきたいですね」

B by the Brooklyn Brewery

北出茂雄

Shigeo Kitade

レゲエに惚れこみ、イギリスとアメリカへ渡航。DJとして活動する中で飲食店の面白さに開眼し、ニューヨークでバーテンダーやレストランのチーフとして働くように。メキシカンタコスとの出合いに衝撃を受け、帰国後、タコスを日本の新たな食文化として広めたいという思いで、2013年に千代田区岩本町にて「北出食堂」をオープン。以来、姉妹店の「KITADE TACOS」をCOMMISSARY日本橋、東京駅のグランスタ、下北沢、人形町にオープン。「B by the Brooklyn Brewery」をはじめ、レストランのメニュー監修も行っている。

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益子健太

Kenta Mashiko

1995年、茨城県生まれ。学生時代よりヒップホップを聴いて育つ。大学卒業後は飲食店で勤務。ブルックリン・ブルワリーのビアホール「B by the Brooklyn Brewery」では2020年のオープンからキッチンを担当し、日々タコスを調理している。

Text : Misaki Yamashita

Photo : Naoto Date

Interview : Misaki Yamashita