●ご出身は?
九州の大分県です。
●どんな学生時代を過ごされましたか?
普通に勉強していました。部活はほとんどやっていなかったので、図書館で過ごすことが多かったです。浅く広くというタイプだったので、趣味に打ち込む友人が羨ましかったのを覚えています。
●高校卒業後はどうされたのでしょうか?
アパレルに興味があり、文化服装学院へ進学しました。
●アパレルに興味を持ったきっかけはあったのでしょうか?例えば、素敵なセレクトショップに出会ったとか。
住んでいたのが国東という田舎町で、大分空港はあるものの、全然そんな素敵なお店はなくて……。当時は古着ブームが始まった頃だったと思うのですが、何もなかったことで洋服ぐらいにしか興味が湧かなかったというか。本当に海と山しかなくて(笑)。
●東京には常にアンテナを張っていたのでしょうか?
そこまで意識はしていませんでした。というのも、小学校に上がるまでは東京に住んでいたので。そこまで記憶にはないのですが、元々いたという感覚は自分の中に残っていて。だからこそ、そこまでの憧れがあったわけではありませんでした。
●専門学校生活はいかがでしたか?
真面目に過ごしました(笑)。今はもうなくなってしまったスタイリスト課にいたので、洋服もつくるしデッサンもする、みたいな浅く広く学ぶような学科だったのですが、課題が多かったので、それを乗り越えながらもあっという間に2年間が過ぎてしまって。もっと遊んでおけばよかった(笑)。
●幅広いカリキュラムのなかで特に興味を持った分野はありましたか?
課題の中で扱った子ども服に興味を持ちました。そのあと、子ども服屋でアルバイトをすることになるくらい興味が移って。
●どうしてまた子ども服に?
子ども服ってすごく凝っていて可愛いんです。少し大きめのサイズだと自分も着ることができるので、それで興味を持ちました。
●確かに。GAP KIDSのTシャツとかすごく可愛いですよね。
そうなんですよ! 最初はアルバイトで入ったのですが、そのまま社員になり、国内の子ども服ブランドを扱うセレクトショップだったのですが、そこで約4年間、販売中心に働いていました。
●どんな方が働いていたのでしょうか?
洋服が好きな同世代の人たちが多くて、みんな友達みたいな感じで楽しかったのですが、長くいることで見えてくる会社の体質があまり合わず、徐々にみんな辞めていってしまって……。それで私も会社を離れることにして、そのままフリーターになりました。
●次が何も決まっていないのに大胆ですね。
目標がないと進めないタイプなので、何とか目標を持ちたいと思っていたのですが、ずっと行きたかったフィンランドへ行くと決心してからはマインドもポジティブになり、1年間アルバイトをしてお金を貯め、初めての海外旅行へ行きました。
●どうしてまたフィンランドに?
雑貨が好きで、フィンランドの蚤の市にどうしても行ってみたくて。
●英語が第一言語ではない国に初の海外旅行というのは緊張しませんでしたか?
とにかく行ってみたいという気持ちが強くて、何も考えていなかったというか。行けば何とかなるだろうと(笑)。
●印象に残っている場所はありますか?
どこだったか忘れてしまったのですが、めちゃくちゃ大きい倉庫でやっていた蚤の市がすごく素敵でした。古着はもちろん、家具から骨董品までずらりと並んでいて。2月という真冬のフィンランドには若干軽装だったかな(笑)という感じはありましたが、何とか無事一週間の旅行を終えることができました。
●帰国後はどうされたのでしょうか?
一つ目標は達成できたので、次はどうしようかと考えたのですが、結局服が好きだというのは変わらず、子ども服屋時代にECサイトに出品する作業をしていたこともあり、「アパレル」と「通販」という2つのキーワードで会社を探し、ブランド古着を扱う会社に入ることにしました。
●最近ではもう当たり前かもしれませんが、セカンドハンドのブランド服というのは、当時は新鮮だったのを覚えています。
初めはブランド服にそんなに興味はなかったのですが、これまで家で眠っていた服が必要とする人へと渡っていくのは新鮮でしたし、いろいろな洋服に出会えて面白かったです。最終的には9年間務めたのですが、そこでの経験が繋がって今のWAT Inc.(※1)に出会いました。
※1 WAT Inc.
カフェの運営を通じて人々が集う状況を生み、その賑わいの創造によって地域に必要なコミュニティをつくる会社。
●どのような経験だったのでしょうか?
この会社で働いた9年間である種やり切った感覚があったのですが、最後の方に社内研修をする部署で社員育成カリキュラムを考えながら一つの場をどうつくり実施するか、という場づくりを通して浮かび上がってきた「コミュニティ」というキーワードがすごく自分のなかで腑に落ちたというか。
●自分自身に大きな変化があったのでしょうか?
ベンチャーの3〜4期目に入社し、まだ社長も社員も同じ空間でデスクを並べていたような会社だったのですが、その社長がすごく教育熱心で。社長の教育メソッドのようなものをカリキュラムとして一緒に形づくっていたときに、右脳と左脳のバランスの良さを感じ、そこに影響を受けたことで場づくりやコミュニティというキーワードに到達できたのは自分のなかでは大きかったし、それが今に繋がっている部分でもあります。それがあって2020年にWAT Inc.に入社し、いまは、このKNAGという兜町のカフェと、もう一店舗、某企業のオフィス内カフェを担当しています。
●右脳と左脳のバランスというのは、具体的にはどのようなことでしょうか?
数字の部分に対する厳しさと突拍子もない発想という意味なのですが、厳しいなかにも人間味のようなものがあったし、生きていく力を感じて。精神的に疲弊することは何度もありましたが、本当に向き合ってくれているから、それも乗り越えることができたというか。ポジティブに考えて進む力を養ってくれました。
●KNAGでの役割について教えてください。
WAT Inc.のなかでは、コミュニティビルダーという業務をするチームに所属しているのですが、カフェがその地域のハブになるような仕掛けや場づくりをイベントなどを通してやっています。
●コロナ禍でなかなか思うような場づくりができなかったのではないでしょうか?
行き当たりばったりというか。コロナでどうしても先が見えない状況だったので、今に直面しながらその時々にできることを軌道修正したり、ストレッチしたりしてでしか舵を取ることができなかったのですが、振り返ってみたら、何とか状況がつくれていたというのが正直なところです。でも、逆にコロナになったことでコミュニティの必要性がより浮き彫りになりましたし、活動しやすくなった感覚はあります。
●KNAGのコンセプトを教えてください。
「兜町の表情を豊かにする」というのが飲食も含めた全体のコンセプトなのですが、コミュニティ部分においては、「居場所」と「創発」という2つのキーワードを掲げています。まずは、このKNAGというカフェが兜町の人々にとっての居場所になること。そして、そこから人が集まることで様々な繋がりが創発されていくような状況を生み、このカフェが兜町のハブになることを思い描いています。
●SNSも徐々に発達してきていますし、いまコミュニケーションをとる方法はたくさんあると思うのですが、画面上だけではなくて、実際にリアルな場で投げ交わされる会話や人々の表情などで温度感が伝わることが一杯のコーヒーを飲むにしても一つの体験へと昇華させてくれるのではないでしょうか。誰とどこでといった時間の使い方が求められている気がしますし、それがコロナ禍でより鮮明になったというか。
それがお客さん同士かもしれないし、お客さんとスタッフかもしれないのですが、この場所がきっかけで会話やコミュニケーションが生まれていて、時間の使い方に対する人々の需要はすごく感じています。先日も15分間のコミュニケーションというのをコンセプトに、ハッピーアワーイベントを企画したのですが、すごく評判が良くて。15分間だけですがアルコールが100円になったことにより、本来なら帰りがけに通り過ぎていたはずの時間が人々の会話を生む時間に変わるきっかけになる、そんなイベントでした。
●どのような方が来られましたか?
近くで働いている方もそうですが、帰り道にたまたま寄ったという初来店された方は、次の日に同僚を連れてきてくれたりして輪の広がりを感じましたし、男女ばらばらで幅広い世代の方が来てくれました。本来であればなかったかもしれない15分間の会話でその日をより豊かなものにしてくれたら、そんな想いで企画しました。
●ご自身の思う、あるべきカフェ像はありますか?
個人的な意見になってしまいますけど、カフェとコミュニティは切っても切り離せないものだと思っています。ただ飲食するだけの場所ではなく、そういった繋がりを求めて来る場所だと信じているというか。お店で働いているスタッフもそうであって欲しいですし、私がコミュニティビルダーという肩書きではあるのですが、実際にお客さんと顔を合わせてコミュニケーションをとるのはそこで働いているスタッフなので、極端に言ってしまうと、スタッフがコミュニティビルダーマインドさえ持っていれば、私は要らないというか。必要な部分だけ見ていければというのが理想です。
●東京だとなかなかお気に入りのカフェを見つけるのが難しいし、忙しい時間の合間を縫ってコーヒーを消費するみたいな時間の使い方しかできないと思うんです。でも、海外のカフェ文化って、ある種、お客さんをお客さんとして見ていない部分があって、その分だけ自由度が高いし、好みまで知ってくれているじゃないですか。そういった風景を端から目撃するだけでもすごく居心地がいいし、そういう空間に居合わせることができただけでもハッピーな気分になりますよね。
そうなんです。だから、カフェって自分の存在を受け入れてくれる場所であって欲しいですし、自分の居場所にしてもらいたいです。
●来る時間帯によってもお客さんは異なると思いますし、求めるものも変わってくると思うのですが、やはりメニューも変わったりするのでしょうか?
朝は出勤前のテイクアウト需要が多いので、コーヒーとサンドイッチが中心になるのですが、ランチタイムになると、デリとサラダを準備しつつも、この街の金融という特性も鑑みて素早く用意できるものにしています。ティータイムは、ケーキなどのスイーツも取り揃えていてゆっくりご利用していただけますし、ドリンクも充実しています。近所のお子様連れの方もティータイム利用は多いです。ディナーはクラフトビールやナチュラルワインを取り揃え、お酒に合うデリやオリジナルスパイスのフライドチキンなんかが人気です。
●近隣に住まれている方も多いのですね。
私たちも最初はビジネスマンなどのワーカー層が多いと思っていたのですが、意外と近隣に住まれているご家族の利用があったので驚いていて。お子さんは日々の成長が見えるので、そういった変化も含めて、この場所でのコミュニティ形成を盛り上げていけたらと、すごく楽しみにしています。
●オープンされて1ヶ月が経つわけですが、今後、このカフェがどのように広まっていって欲しいですか?
やっぱり、カフェで知り合いが増えていくというのが良くて。インスタグラムなどのSNSで広がっていくのも当然嬉しいのですが、そうではなくて、携帯に情報を打ち込む手前のまだ熱量があるうちに口コミで伝わっていってしまうような状況になると、すごくコミュニティとしての広がりがあると思うんです。KNAGっていう店名は、デンマーク語でコート掛けという意味なんです。誰もが気軽にコートを脱ぎ、肩の力を脱いて過ごせる、そんな空間になればという願いが込められていて。
●最近はまっている場所があれば教えてください。
お酒を飲みに行くのが好きなので酒場によく足を運ぶのですが、お気に入りは、北千住にある「天七」という立ち飲みの串揚げ屋です。カウンターになっていて、そこに男女様々な年代の人が囲んでいるんです。ある種、街の縮図になっているというか。そこで偶然隣り合わせた人と会話が始まるみたいな状況と雰囲気がすごく好きで。言ってしまえば、食事はそこまで重要じゃなくて、その地域に参加できているみたいな感覚を味わってみたいのだと思います。そこに行けば誰かいるみたいな状況が、意図せずともこのKNAGでもつくっていけるといいなと思っています。
●そういった空間を共有することが自然とできているお店って、海外の方も必ずフックしたりしますよね。その街の様子や色が一目でわかるというか。
出迎えてくれるようなホスピタリティ溢れる空間って、実はそんなに意識的につくられていないんですよね。お客さん一人ひとりが居心地の良さを感じて使ってくれていて、それが積もり積もってみんなにとって利用しやすい空間を形成しているというか。きっとその雰囲気が外国の方でさえも出迎えてくれている空間を形づくってくれている気がするんです。
●そういう意味では、お客さんも地域に参加するというニュアンスを持って入ってきてもらうことで、カフェという空間がまた一歩居心地の良い空間へと変わっていきそうですね。
お客さんとスタッフの双方がそれぞれ心地良いと思える空間をつくる。空間は必ずそのどちらかが欠けてもいけないと思っています。お客さんを出迎えるスタッフというスペシャリストたちが上手くコミュニケーションを図れる環境をつくるのが、ジェネラリストでありコミュニティビルダーでもある私の役目だと思っています。
Text : Jun Kuramoto
Photo : Naoto Date
Interview : Jun Kuramoto
吉武美紀
KNAG コミュニティビルダー
町内会長さんの奥さん 喫茶店ゆう – マスターさん
兜町の気になる人
町内会長さんの奥さん
これまでこの兜町に住みながら見てきた街の変化やその軌跡、影で支えてきたであろう兜町のお話を、町内会長さんの奥さんから聞いてみたいです。
喫茶店ゆう – マスターさん
クラシックな喫茶店をみつけたので入ってみると、サラリーマンのおじさんたちがしていた商談の金額が桁違いの大きさで驚いたという話を、カフェ巡りが大好きな友人から聞き、そんな会話をたくさん聞いてきたであろうマスターさんに、これまでの兜町の話を聞いてみたいです。