jp

en

中澤 佑輔
中澤 佑輔

2023.02.16

中澤 佑輔

イートクリエーター クリエイティブディレクター

足元から変化する街
持ち帰りたくなる空間

「Neki」「ease」「teal」。イートクリエーターが仕掛ける店舗の数々は、今や兜町には欠かせない存在となった。今回は、そんな店舗のクリエイティブを手がけている中澤氏に、先日オープンしたばかりの食の複合ショップ「BANK」をつくるに至った経緯と兜町につくるべき空間のあり方について、同じく複合施設「Keshiki(景色)」をオープンさせたばかりの松井(Kontext編集長)からインタビューした。

●Neki、ease、teal。今や兜町には欠かせない存在となったイートクリエーターですが、イートクリエーターに関わるきっかけは何だったのでしょうか?
代表の永砂さんとはイートクリエーター立ち上げ前のお仕事で、当時は僕が代表を務める株式会社ナナイロの中澤としてご一緒させていただきました。その時から仲良くさせてもらっていて、イートクリエーターを立ち上げるお話は伺っていていました。関わるきっかけは、ナナイロの中澤として「ease」の立ち上げをアートディレクターとしてお手伝いしたことですね。

●ease立ち上げの話があったのは、K5オープン前だったと記憶していますが、実際にお話があった時に、兜町という街にどのような印象を抱いていましたか?
僕のクライアントが兜町にいて、何度か訪れていました。金融街としての認識はあるものの、兜町のことは全く知りませんでした。プライベートで来ることは、なかったですね。

●ease立ち上げの話になりますが、大山さんはどのように仕事を進めていったのでしょうか?
大山さんには確固たる「こうしたい」がありまして、彼の頭の中にあるものを具現化していくプロセスを踏んだというのが、僕の仕事でした。
日々、変わりゆく状況を自分たちで体感しながら、そこに落ちている発見を拾い、徐々につくり上げていく。そんな感覚でした。お互い壁打ちしながら良い方向に良い方向にと前に進めていきました。

●兜町という場所でお店を開く時に、街の文脈のようなものに意識はありましたか?
多少はあったと思いますが、良い意味でも悪い意味でも兜町という街にイメージがなかったので、あまり意識せず、そこに異質なものを放り込むような感覚で大山さんのつくりたいものを置いたというのが正直なところですね。意識したところで変わらなかっただろうし、それで良かったのだと思います。ただ、新しい価値をこの街に投げかけたいという想いはありました。BANKも同じです。

●BANKはどのような想いでつくられたのでしょうか?
BANKをつくる時に大山さんがずっと言っていたのは、「日本橋という伝統ある街に新たな価値をつくりたい」。ease、tealを経て、彼の想いが徐々に変化してきたのだと思います。

●「新たな価値」というのは、大山さんから出てきたのか、それとも、いま必要なものを社内で議論していったのか、どのようなアイディアから生まれていったのでしょうか?
ベースは大山さんが考えていたことでした。それをブレークダウンし、自分たちがつくりたいモノにフォーカスした結果がBANKだと思っていて。僕のようなクリエイティブ側の人間もそこに向かって突っ走っていけたというか。本質を掘り下げていく作業に近いですね。世の中のトレンドは、ほとんど見ていなかったと思います。

●時代の波もより本質へ向かっているような気がします。本当に面白い街って、小さくてもいいレストランやバーがあって、そこが流行るとその周りにローカルな人たちが集える状況が生まれている。同じように、グレーな街にK5から色んな文化が差し色になって街をつくっていけたら面白いだろうなと考えていたのですが、BANKはどのようなストーリーを持っているのでしょうか?
もともと銀行跡地だったこともあってBANKと名付けられたのですが、1階にベーカリーのbankと、ビストロのyen、地下にはカフェバー&インテリアショップのcoin、フラワーショップのfêteという構成になっていて、大山さんがeaseを五感で感じられる場所をつくりたいという話から始まっています。

●「五感」というアイディアに至ったのはなぜでしょうか?
easeのお客さまは、easeのお菓子が好きなだけではなく、そこに置いてあるお皿や空間そのものを気に入ってくれているんです。実際にお店で使っているお皿やドライフラワーを買いたいとお問い合わせをもらうくらいでして。

●例えば、どのようなものを持ち帰ってもらえたら五感を満たしてもらえると思いますか?
推しはパンなので、もちろんパンは持ち帰ってもらいたいのですが(笑)。
BANKの空間デザインの他に、館内の体験を通して五感を満たしてもらえたらと思います。例えば、店舗ごとに「香り」で空間の変化を感じることができたり、ビストロ「yen」で食事をして、「yen」で気に入ったお皿を地下のカフェバー&インテリアショップ「coin」で購入していただくことができたり。「coin」で花器を買った方がフラワーショップ「fēte」でお花を手に入れたり。「coin」でコーヒーを買って、「bank」のパンと一緒に楽しむ等、こうした体験の連鎖を意識して設計をしています。

●空間と体験のバランスはありますよね。もちろん提供しているモノが美味しいというのは大前提で、空間や働いている人、そこでの会話が醸し出す空気感。そういったものが総合的にお店を印象づけている気がします。BANKでは、easeやyenで使用されているカトラリーや花器、お花も買うことができるということですが。
それだけではなくて、モノによっては作家さんを紹介するようなかたちで、お客さまが座った椅子やテーブルまで買えるようにしています。

●BANKのフロントにお菓子ではなくパンをもってきたことに理由はあるのでしょうか?
BANKでは毎日通っていただけるモノ、日常に寄り添うモノを扱いたい想いがありました。ビストロも特別な日のオシャレな料理というよりは、パスタのような骨太な、言ってみたら街の定食屋さんに位置づけられるような料理を提供したい。それを星付きのレストランで活躍していたフレンチ出身のシェフが作るところはイートクリエーターらしいなと。

●パスタで思い出したのですが、僕らのオフィス「Keshiki(景色)」の一階にはpony pastaというパスタ屋が入っているのですが、リノベーションする時にピザ窯があったので、最初はpony pizzaをやろうと思っていたんです。でも、結局ピザ窯を持っていかれてしまって(笑)。当初は同じような設備を用意しようとも思ったのですが、客席をいじめることになるし、換気条件などの要因もあったので、シェフと相談して最低限の設備でパスタをやろうということになって。
目の前にある状況にどれだけ柔軟に対応できるかって大切ですよね。僕たちも色々なプロジェクトを進めていく中で、そのようなことは多々あります。

現場を常に意識することで、目の前の状況に向き合い、自らのクリエーションが現場に、会社にどう寄与するのか。

●ソフトオープンの際、お客さんからの反響はありましたか?
おかげさまですごく反響があって。ベーカリーもそうですし、ビストロも大変好評いただいています。地下のカフェバーでは、キャロットケーキなどのeaseのお菓子が食べられると行列ができていて。フラワーショップは撮影スポットになっています。狙い通りと言ったらおこがましいのですが、easeが好きな人たちに来ていただいているという実感はありました。

●現場を見続けることで考え方や仕事のスタイルも変わっていったのでしょうか?
かなり変わりましたね。僕は、これまで広告代理店の仕事が多かったこともあり、与えられた予算の中で、事業性というよりは、プレゼン映えするような目新しさを追求することが多かった。イートクリエーターに参画し、現場を常に意識することで、目の前の状況に向き合い、自らのクリエーションが現場に、会社にどう寄与するのか。この思考の習慣化が一番の変化だったかもしれません。

●Keshikiは自分たちのためにつくっているような部分もあります。家族や友人、そういったコミュニティに楽しんでもらえたら一番だと思っていて。
それでお店をまわしていけるのであれば、全然ありですよね。僕たちもBANKをはじめ、お店と、そこで働く仲間にとって良い状態を問い続け、常に探っています。
そういえば、Keshikiも入口に植栽がありますし、地下空間もあってBANKと構造が似ていますよね?

●そうですね。入口にMOTHというK5の植栽チーム「Yard Works」が入っていて、その横にワークスペース兼ポップアップスペースのTangible Studio、奥にpony pasta、地下には僕らのオフィススペースと、その奥にAA(アー)というギャラリースペースがあって。
松井さんにこの機会にお聞きしたかったのですが、「街のブランディング」ってどうお考えですか? 僕も仕事柄、理屈では理解ができますが、違和感を感じていて。

街が変化していく様子を街のなかで実体験として味わえていることが面白い。

●メディアサーフは、街がどのように発展していくかという都市論に興味があります。ジェントリフィケーションというのですが、よく言われるブルックリンで起こったようなことで、日本では中目黒がそれにあたるかもしれません。つまり、僕らがやりたいのは人工的に良いジェントリフィケーションを起こすということ。良い街って広がりがあると思っているのですが、そのなかでも数値化できないモノにこそ文化的な価値があるのではないか。そこを守っていけるような場所をつくっていきたいと思っているんです。でも、おっしゃられているように、それにレッテルを自ら貼るのって違うというか。それは訪れる人が決めることであって、自らクラフトの街と銘打つのは違うなとは思います。
そうですよね。だから、すごく違和感を感じるというか。
BANK、ease、teal、Nekiは、シェフの一人ひとりの個が立っていて、それぞれのクリエーションで、食体験を提供している。そのどれもが尖っていますし、だからこそ点と点が面となり、結果的に兜町のイメージに寄与していると考えています。メディアサーフさんが開発されているK5やKeshikiをはじめとした場所も同様に。始めからこの状況を想像できた人って、実はあまりいなかったんじゃないかなと思っていて。

●僕たちも街に関わるにあたっての仮説やお声がけをいただいた平和不動産さんと同じ方向を向くためのプロジェクトの定義は必要でしたが、コロナを想定していたわけではなかったですし、時代とともに当然変化もある。兜町が金融の街、事始めの街であるなら、身なりを整える場所として床屋さんがあったらいいし、うなぎを食べて身なりを整えて大きな勝負に臨むというのもすごく粋じゃないですか。今なら食体験をはじめ、自分たちの今あったらいいなと思えるものを丁寧に置いていきたい。でも、それを兜町はこういう街ですと自らレッテルを貼るのではなく、時代の温度感とともにまわりが判断する状況がいいとは思う反面、僕らはもう少し先の未来を俯瞰しながら、理想の街の状況を議論し続けたいなと思っていて。
兜町に新たなイメージが重なりはじめた今だからこそ、理想の街の状況を議論するのは必要かもしれませんね。初めて兜町に足を踏み入れた時と、今では、ここにいる人たちも徐々に変わってきている気がします。その変化がとても面白くて、毎日兜町をウォッチしています。

●確かにそうかもしれません。西がクールだと思っていたけど。
そうなんですよ。ナナイロを起業した2008年頃、オフィスを馬喰町に構えていました。当時のこのエリアの賃料は安かったし、Central East Tokyoが掲げられていて、変化する街にときめいていました。でも、実際は至るところにマンションやスーパーマーケットが建ちはじめ、これじゃない感を抱き、東京の西側の富ヶ谷にオフィスを移転しました。今は、西・東を区別した考え方はしないのかもしれませんが、当時は東京の西側にはトレンドに敏感なオシャレな人たちが多くて、クールだと思っていましたね。そんな人たちが兜町に来てくれて、兜町を行き交う人たちの雰囲気が変わったと思い込んでいたのですが、実際にはそんなことはなくて、住んでいる人、働いている人たちが変わってきていると感じています。

●最近はこの界隈の人たちが頻繁に兜町に出入りするシーンが見受けられますよね。ローカルという意味ではすごくいい状況ですよね。
そうですね。街が変化していく様子を街のなかで実体験として味わえていることが面白い。街が足元から変化しているのを実感しているような感覚なんです。

人工的に1からつくれる空間ではなくて。時の流れを感じさせるディテールをあえて残す良さってあるなと。

●2018年にはじめてK5に来た時に、モノトーンでグレーな街という印象があって。自分たちとはあまり交差してこなかったような印象があったのですが、先日、青山に打ち合わせに行った時に、何か落ち着かない感覚を覚えて。もともと親しみのあった場所だったけど、兜町に帰ってきた瞬間に急に安心したりして(笑)。いつの間にかホームの感覚に変わっていたんですよ。不思議と自分のお気に入りの場所になっていたというか。友達に教えたい場所だし、来る人にも知ってもらっている状況があったりして。
街にも、空間にも、初めてだけど居心地の良さを感じることってありますよね。古い建造物をリノベーションすることで宿る空間のチカラって、まさにそれだと感じていて。tealの場合だと、日証館という歴史ある建造物だからこそ、心地よい化学反応が起きたのだと思います。BANKも同様で、人工的に1からつくれる空間ではなくて。時の流れを感じさせるディテールをあえて残す良さってあるなと。

●オーセンティックさというか、デザインを超えたストーリーが閉じ込められている感覚はありますよね。
K5の館内を歩いている時、博物館に泊まるような厳かな空気を感じましたね。

●もし、次にお店をやるとしたらどのようなことをやってみたいですか。ちなみに、僕は小さなホテルをやってみたいなと思っているんです。コペンハーゲンに「Central Hotel & Cafe」という、カフェの上に1組だけ泊まれる小さなホテルがあって。それこそ、入口に小さな床屋があるようなホテルをやれたらと。
BANKの地下へ降りる階段の下に狭くて低い空間があるのですが、そこに子どもが入りたくなるような本屋をつくってみたいですね。秘密基地の端っこみたいな場所で(笑)。それも、食を軸に国内外の古本をセレクトした本屋とか、おもしろそうですね。新しいものより昔の古き良きを並べたいな。日本にはレストランやレシピの載ったビジュアルブックが少ないため、ブックを作ったり、海外のブックを集めたりしたいですね。

中澤 佑輔

中澤 佑輔

Yusuke Nakazawa

1977年、大阪府生まれ。イートクリエーター・クリエイティブディレクター。ナナイロを主宰する傍ら、イートクリエーターに参画。以降、兜町で「ease」パティシエの大山恵介氏とタッグを組み、「teal」を経て、食の複合ショップ「BANK」をオープン。流行りに翻弄されることのない暮らしの根本を見つめたクリエイティブで、新たな価値を投げかけている。

Text : Jun Kuramoto

Photo : Naoto Date

Interview : Akihiro Matsui