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その「一皿」、「一杯」は、どのようにして生まれたのか。店のシグネチャーを紐解けば、シェフの感性や哲学、食材へのこだわり、生産者の姿勢まで見えてくる。料理の背景にあるストーリーから、兜町を形作る点と点が線になる。「Dialogue of Food」の第二回目はAoのカクテル。

赤を基調とした内装に、渋沢栄一や金融、兜町にまつわる書籍が並ぶ。K5内にあるライブラリーバー青淵 – Aoは、田中開野村空人によるプロデュースで、渋沢栄一の人生からさまざまなインスピレーションを受けたカクテルを提供している。

「実際には、お店の経営企画を担っている金瞬さんが渋沢栄一好きで、自伝をすごく読んでいて。ここの選書もやってくれています。彼が渋沢栄一の人生からストーリーをピックアップしてくれ、そのキーワードからカクテルとかけて言葉遊びをしたり、イメージを広げて(野村)空人さんがカクテルに仕立てています」と話してくれたのは、バーテンダーの河嶋志朋さん。昨年10月にメニューをリニューアルし、兜町や渋沢栄一の物語をより楽しめるメニュー構成となった。

●Mid-day spiritz 中の家

渋沢栄一の生まれた家は、埼玉県の裕福な農家で、村で複数ある渋沢家のなかでも、中の家と呼ばれていたという。そんな中の家からインスピレーションを得たカクテルは、昼間から飲みたくなるような爽やかな味わいが特徴だ。「ベースのラムに、空人さんが沖縄を旅した際に出合ったシナモンの一種カラキの香りを合わせています。そこに、宮崎県で自然農法で栽培された水出しほうじ茶と、きび糖のシロップや炭酸、そしてクルタキス レッチーナ・オブ・アッティカというギリシャ産ワインを合わせています。このワインは松ヤニで風味付けされているので、そのままではクセが強いけれど、炭酸と割ると香りが開いて爽やかになるんです。Mid-dayなので、昼間から飲めるくらい軽やかに仕上げています」

●The Shogunal car 将軍

蜂起計画中止後、なぜか、打ち倒そうとしていたはずの幕府軍の一橋慶喜の家臣となり、明治に入ってからも慶喜を敬慕し続けた渋沢栄一。そんな将軍というキーワードにサイドカーというカクテルを掛け合わせて生み出したもの。野村空人が立ち上げに関わった表参道GYREで出合った、陶芸家・二階堂明弘の焼締めで提供する。「(野村)空人さんが昔のリキュールを使うイベントをやっていたことがあって、その時から構想としてあったという電気ブランに、熟成番茶を合わせています。うちの茶葉はほとんどnormの(長谷川)愛さんを通して仕入れていて、これは静岡県藤枝市の茶畑のもの。そこに、シナモンジンジャーシロップやレモンジュースも加えてシェイクします。シロップも、水を加えずショウガと砂糖を煮立たせて作った自家製で、生薬はすべて鎌倉の杉本薬局から仕入れています。カクテルを器に入れたら、上にメスカルをかけます。それによって、いちばん最初にメスカルの香りが上がってくる。せっかく土の器を使っているのだから、独特な土っぽいスモーキーな香りを味わってもらえるように、と考えたものですね」。メキシコで手作業によって作られ、蒸し焼きの土っぽさが残るメスカルに、日本の手仕事によって生み出された武骨な佇まいの器。その重厚感あふれるハーモニーを感じたい。

●Alphée Rouge アルヘイ号

1867年、パリ万博へ随行することになった渋沢栄一は、アルヘイ号に乗ってフランスへ出航。船中でバターやハムを食べ、「味甚美なり」と記している。赤い船だったと言われるアルヘイ号から連想し、赤を多層的に重ねたカクテルに。「櫻井焙茶研究所から仕入れたサンルージュという鹿児島県徳之島のお茶は、酸に反応して赤くなります。梅酒好きの間ではよく知られる星子梅酒に、サンルージュの茶葉を反応させて、赤さを引き立たせています。この星子梅酒はバーデンダーが作っていることもあり、すっきりして飲みやすくカクテルにしやすいんです」。ベースとなるカルバドスにもバターを加えて、冷凍庫に入れているという。「カルバドスは度数が40度あるから凍らないけれど、バターだけは凍るんですね。そこでバターを取り除くことで、カルバドスにバターの香り付けができる。バターの味はしないけれど、ほんのりミルキー感が残ります。ここに、クコの実のエキスで香り付けしたウォッカやチェリーフィリングを加えます。樽感が強いカルバドスに、甘さを足してすっきり飲めるものにしているので、ハイボールが好きな人ははまりますね」

真空にして低温調理したり、油分とアルコールの化学反応の違いを利用して香り付けしたり。ただお酒とお酒を合わせているのではなく、経験とロジックとセンスをもとに、素材のひとつひとつを丁寧に作り上げている。そんなグラス1杯の中に閉じ込められたストーリーを知れば、カクテルの美味しさもひとしおだ。今後は、月に3種類程度、限定カクテルも提供していく。同店のバーテンダー陣がアイデアを出し合って考案した9月のカクテルは、今年6月にオープンした「平和どぶろく兜町醸造所」のどぶろくをベースにしたものや、和梨に青唐辛子、ミョウガとフェンネルを加えたシュラブを焼酎や炭酸で割った「夏の終わり、秋の始まりサワー」など、初秋にぴったりの爽やかなもの。季節を感じられるカクテルも見逃せない。

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河嶋 志朋

Yukitomo Kawashima

1995年長野県生まれ。18歳の時、上京しアルバイトでバーで働く。その後21歳でオーストラリアへ。メルボルン、パース、シドニーのバーで2年間働いたのち、客船でバーテンダーとして働く。2019年12月に帰国しメルボルンで働いていた友人からAoの田中開さんを紹介してもらい、オープンから同店で働いている。趣味は写真とボルダリング。

Text : Momoko Suzuki

Photo : Nathalie Cantacuzino

Interview : Momoko Suzuki